中居正広「9000万円女性トラブル」を元テレビ朝日法務部長が解説「守秘義務でスキャンダルは封印できない」
会社は「安全配慮義務」を怠っていなかったのか
特に加害者が有名人の場合、被害者はテレビやネット、街で意図せずにその姿を目にして、被害のフラッシュバックに襲われる恐れがある。このため被害者が加害者に「公の場に出ないで欲しい」と要望する事案も少なくない。この場合、著名な加害者は重い課題を抱えることになる。 こうした深刻な事態を解決するには、加害者、被害者の両方と関係が深い仲介者が助けになることが多い。中居氏の件では被害女性と関係していた会社がその候補になるはずだが。一連の報道を見ていると、その会社が女性との間に行き違いを抱えているようだ。 女性は事件当日について、会社幹部に「大人数の食事」と聞かされて現場に行ったが、着いてみると中居氏と密室に2人きりになっていて事件が起きたと説明、会社側の対応を強く批判したと報じられている。 仮にこれが事実ならば、会社が女性を深刻な危険にさらしたことになる。会社としての「安全配慮義務」を尽くしていたのかについて、いやそれ以前に、会社の体質そのものについて社会的な責任を問われかねない。
何より大切にしなければならないのは女性の意思
もしこの件が「中居氏と女性の問題」だけでなく「会社と女性の問題」も絡むことで「本当の解決」を迎えていないのなら、一つひとつ解きほぐしていく必要がある。 被害女性との信頼関係の前提として、会社側が調査を徹底することは必須だろう。会社は27日、事件への関与を否定する公式コメントを出したが、どういった調査を行ったのかなどの根拠は明かされていなかった。当事者から話を聞くだけでなく、携帯電話の通話履歴やメール、SNSでのやり取りを調べれば、事実は自ずと浮かび上がるはず。その結果、女性に誤解があったなら調査結果を提示して納得してもらうよう努めるべきだし、会社側に問題があったなら女性にどう償うかを考えなくてはならない。 そして何より大切にしなければならないのは女性の意思だ。今回報道が出たことは被害女性の周辺からの悲痛な訴えや何かのシグナルだった可能性もある。もし女性側が「公に訴えたい問題がある」と考えている場合は、その希望に沿って中居氏や会社が公の場で説明することも検討すべきだろうし、「静かにしたい」という意向なら見守ることになる。 いずれにせよ人間の尊厳にかかわる深刻な性被害は一朝一夕に解決しない。被害女性の心にどこまでも寄り添いながら一歩ずつ進むしかない。もしかすると一生をかけて取り組むことになるかもしれない。 その覚悟が中居正広氏と会社側にあるのかが、問われていると思う。 西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。 デイリー新潮編集部
新潮社