【被災者の心の健康】教育機関の役割に期待(8月20日)
福島学院大は「福島子どもと親のメンタルヘルス情報・支援センター」の研究拠点施設を先月、南相馬市に設けた。大学所在地の福島市に今春、センターを開設したのに続き、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響が大きい浜通りに新たな拠点を構えたのは意義深い。震災と原発事故発生から13年半が経過した中、関係機関と連携して子どもや保護者の心の健康を守る取り組みに一段と力を注いでほしい。 浜通りの子どもを対象に、言葉や運動の発達状況、保護者の心理状況などのデータを震災発生直後から蓄積してきた。その結果、情緒に問題がある乳幼児には長期サポートや保護者への支援が重要であることなどが分かったという。 今年度から福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)の研究委託を受けている。南相馬市に設けた施設では「乳幼児健診データ分析」「親子インタビュー」などを実施し、これらの分析を踏まえてメンタルヘルスの教材・研修プログラムの開発などを進める。プログラムは保護者をはじめ、子どもや保護者の支援担当者に提供する。
委託事業には医師や臨床心理士、ケースワーカーら約30人が参画し、福島大、大正大、英国、オーストラリアの大学が協力している。各分野の専門的な視点で、被災者の精神面の負担が少しでも和らぐよう願う。 県内では、複数の高等教育機関が被災者の心のケアに関する研究を続けている。福島大の災害心理研究所は、長期に及ぶ避難生活での住民意識の変化などを調査、公表している。福島医大の災害こころの医学講座は、子どもや保護者に対して必要な支援の手法を提言したり、手引にまとめたりしている。それぞれの存在やこれまでの研究成果は精神面での不安が残る人たちにとって心強いに違いない。 震災発生以降、県内は震度6級の地震に2度襲われ、台風による水害も相次いでいる。全国に目を向ければ、能登半島地震で多くの住民が避難を余儀なくされた。南海トラフ地震を巡っては、初の「巨大地震注意」が発表された。これらの災害による子どもたちへの心理的な負担は大きいはずだ。本県や各地の被災地で得られた知見を共有できる仕組みも整えたい。(神野誠)