小林虎之介は天性の愛され俳優 “痛みの伝わる演技”が『宙わたる教室』の骨格を担う
演じた役が好きになる天性の“愛され俳優”
ただ、それだけが彼の魅力ではない。小林虎之介の俳優としての一番の魅力は、演じる役を観る人が気づけば好きになってしまうところだ。 たとえば『下剋上球児』。監督の南雲(鈴木亮平)と食事をするシーンで、さらりとビールを飲もうとして、南雲に止められる。そのとき、壮磨がなんとも自然な顔で笑うのだ。普段は喧嘩っ早く突っ張っているが、根は素直でいいやつなんだということが一瞬でわかる笑顔だった。もちろんこの笑顔を引き出したのは、その前の鈴木亮平の芝居なのだが、こうした何気ない一言や表情で役の人間味を見せるのが小林は抜群に上手い。 『宙わたる教室』なら、みんなが懸念の表情を浮かべる中、佳純(伊東蒼)が科学研究コンテストに参加したいと伝えるシーン。「そうは言ってもよ、できるか、俺たちなんかに」と案じる声色は、年長の長嶺(イッセー尾形)に向けるそれよりずっとソフトだ。年下の女の子には優しいお兄ちゃん気質になる不良男子らしい一面であり、同時にあきらめることに慣れていた者同士の寄り添いの言葉でもあった。 また、元夫に絡まれていたところを助けられた麻衣(紺野彩夏)がお礼を告げるシーンでは、当然のことをしただけで感謝される必要なんてないというくらいナチュラルに聞き返し、だけどほのかに漂う恋愛フラグに照れくさそうに頭を掻いた。こうしたある種のお約束がちっともあざとくならないのも、小林の特筆すべきポイントだ。だから、ノイズを一切感じることなく素直に感情移入できる。そして、役のことが好きになる。 素の本人が表に出る機会の少ない俳優にとって、役は自分の顔となるもの。役が愛されることは一番の名誉であり、愛される役を多く持つ俳優ほど息の長い活躍ができる。『ひだまりが聴こえる』の太一は『下剋上球児』、『宙わたる教室』の岳人は『下剋上球児』と『PICU 小児集中治療室』を見て、制作チームがオファーをしたと言う。ならばきっと太一や岳人を見て、また別のチームが次なるオファーを送っているに違いない。 いい役が、また次のいい役を生む。今、小林虎之介は俳優として理想的なスパイラルに乗っている。
横川良明