北朝鮮、高濃縮ウラン施設を初公開…米大統領選を見据え「核カード」切るか
北朝鮮が核弾頭の製造に使われる高濃縮ウラン(HEU)の製造施設を初めて公開した。約50日後に迫った米大統領選挙を見据え、「核カード」を本格的に取り出したものとみられる。 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、核兵器研究所と兵器級核物質生産施設を現地指導し、兵器級核物質の生産を増やすための重要課題を提示した。13日、朝鮮中央通信が報じた。金委員長は「戦術核兵器を作るのに必要な核物質の生産に総力を集中」するとともに、遠心分離機の台数をさらに増やし▽遠心分離機の個別分離能をさらに高め▽新型遠心分離機の導入も計画通り推進するよう指示した。金委員長は「ここは実に見るだけで力が湧く」と満足を表明した。 北朝鮮が公開した写真は、最新式の施設内に遠心分離機がびっしりと並んでいる様子をとらえている。ウラン濃縮施設は通常、約2000個の遠心分離機で構成される。北朝鮮は2010年、米国の核物理学者であるジークフリード・ヘッカー博士を招待し、平安北道寧辺(ヨンビョン)の核施設内のウラン濃縮施設を見せたことがあるが、このように写真まで対外的に公開したのは今回が初。 北朝鮮の科学技術に関する専門家のイ・チュングン元科学技術政策研究院研究委員は「北朝鮮は1980年代からウラン濃縮技術を開発してきたが、その能力が急速に強化されていることが確認できる」とし「遠心分離機を改良し続け、素材も既存のマルエージング鋼から炭素繊維にアップグレードし、濃縮能力が初期型に比べて10倍以上に向上しているとみられる」と推定した。 北朝鮮が今回公開した施設の位置は明らかになっていないが、専門家らは朝米交渉などで争点になってきた平壌近隣の降仙(カンソン)団地である可能性が高いとみている。2019年2月にベトナムのハノイで開かれた朝米首脳会談で、金正恩委員長は寧辺の核施設を廃棄する代わりに、北朝鮮に対する主な制裁を解除するよう要求した。ドナルド・トランプ米大統領(当時)は寧辺だけでなく降仙の高濃縮ウラン製造施設まで廃棄するよう要求し、ハノイ会談は結局「ノーディール」で終わった。 重要なのは、北朝鮮が隠してきたウラン濃縮施設をなぜ今公開したかだ。金委員長は今回の視察で「核武力を中心とした国防力強化は、米国に対応し牽制しなければならないわれわれの革命の特殊性」だと強調した。米大統領選後の朝米関係を念頭に置いた行動であることを明らかにしたということだ。北朝鮮の核兵器の大量生産能力を誇示し、米国に対して「北朝鮮の非核化は不可能になったという現実」を認め、「北朝鮮の核保有を認める核軍縮交渉に乗り出せ」というメッセージを投げかけたものと読み取れる。バイデン政権の北朝鮮核対応の失敗を浮き彫りにし、トランプ前大統領側を後押ししようとの意図もうかがえる。 北朝鮮が米国に対する圧迫の水位を高めるために、7回目の核実験まで強行する可能性も排除できない。北朝鮮は2017年5月の6回目の核実験後、これを中断してきた。イ・チュングン研究委員は「北朝鮮が米国に向かって『幾何級数的に核能力を強化する』と誇示し、核カードを本格的にちらつかせているものであり、次の段階で7回目の核実験を行う可能性もある」と述べた。大統領室の高官も「核実験の時期は北朝鮮指導部の決心によって変わる可能性があり、米大統領選など様々な要素を考慮して時期をはかるだろう」と評価した。 統一部は同日、「いかなる場合であれ、韓国と国際社会は北朝鮮の核保有を決して容認しないことを北朝鮮も明確に認識しなければならない」と述べた。しかし、米国では民主・共和両党の政策綱領から「朝鮮半島非核化」目標が消え、非核化よりも北朝鮮の核能力の管理が必要だとの声が高まっているのが現実だ。 パク・ミンヒ先任記者、イ・スンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)