飛び交う「どうした」「お大事に」 渡辺九段の異例投了で千田八段が3勝目挙げる 第83期順位戦A級6回戦
第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は6回戦が進行中。12月13日(金)には渡辺明九段―千田翔太八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。相掛かり調の力戦形に進んだ本局でしたが、ひざの痛みに襲われた渡辺九段が対局継続を困難と判断して夕食休憩後に無念の投了。形勢互角の局面ながら、71手までで千田八段の勝ちとなりました。 ■相掛かりの力戦形 ひざを痛めている渡辺九段からの事前の要望で椅子対局となった本局。特別対局室での椅子対局はこの前週の渡辺九段ー広瀬章人九段戦(竜王戦)に続いてのこと。後手となった渡辺九段はひねった作戦を用意していました。先手に飛車先の歩交換を許す代わりに右銀の活用を急いだのがそれで、研究勝負になりがちな定跡形を避けようとする意図が見て取れます。 先手の千田八段が棒銀の要領で先攻を見せたのに対し渡辺九段は右銀を4筋に上げてバランスを維持。そして局面が一段落と見るや否や攻勢に転じます。相手の手に乗って右銀を6筋に組み替えたのは早繰り銀を応用した柔軟な反撃。形勢はまだまだ互角ながら、手順に銀交換に持ち込んで先手の玉型を乱すことに成功しました。 ■ファンびっくりの終幕 夕食休憩が明けたころから異変が生じます。考慮に沈む千田八段を尻目に渡辺九段は遠くを眺めたり目をつむったりする仕草が目立ち始め、盤上に集中している様子ではありません。終局時刻は19時17分、席を外していた千田八段が戻ったのを見た渡辺九段はひざの痛みのため投了する旨を伝えました。これで千田八段、渡辺九段ともに今期順位戦成績は3勝3敗に。 中継カメラには痛みに苦しむ渡辺九段とこれを気遣う千田八段の姿が映り、観戦していたファンはそれぞれ「お大事に」「気配りのできる素敵な棋士」と労いの言葉をかけました。局後SNSを更新した渡辺九段は「手術の日を待って、それから復帰へ向けて頑張るしかありません。」と複雑な思いを明かしています。 水留啓(将棋情報局)
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