独トラックテロ事件はメルケル首相に向かい風となるか
ドイツのベルリンで19日に発生した大型トラックを使ったテロ事件は、これまでに12人の死亡が確認され、50人近くが重軽傷を負う惨事となった。容疑者とされるチュニジア人男性は逃走を続けていたが、イタリアのミラノで警察との銃撃戦の末に死亡した模様だ。ベルリン中心部で行われていた恒例のクリスマス市は多くの人でにぎわいを見せていたが、人ごみの中に大型トラックが突入するというテロに対して、「国全体が悲しみに包まれている」と事件後、報道陣に語ったメルケル首相もショックを隠し切れない様子だ。来年9月に総選挙が行われるドイツ。ベルリンの事件を含む最近の凶悪事件の続発を受けて、難民の受け入れやEU加盟に反対する政党の影響力がさらに増すとの見方もある。
チュニジア人容疑者を射殺
事件は現地時間の19日午後8時過ぎに発生した。ベルリン中心部のカイザー・ヴィルヘルム記念教会周辺で行われていた恒例のクリスマス市に突然大型トラックが突入し、クリスマス市に訪れていた市民や観光客らを次々にはねた。トラックはそのまま走行を続け、教会の外にあるクリスマスツリーの前で止まった。 カイザー・ヴィルヘルム記念教会とベルリン動物園の間にあるブダペスター通りを走行していたトラックは、突然車線を越えてクリスマス市の中に入って行った。クリスマス市が行われていたエリアは連邦首相府や日本大使館からもそれほど離れていない場所にあり、市民だけではなく、観光客も訪れるスポットとして知られていた。 死亡した12人の中には、ドイツ人だけではなく、ベルリンで働くイタリア人女性や、観光で教会を訪れていたイスラエル人男性も含まれている。身元が特定できていない犠牲者もいる。そのうちの2名はウクライナ人だった可能性もあり、現地のウクライナ大使館が遺体のDNA鑑定の結果を待っている状態だ。また、ポーランド人男性の死亡も確認されている。犯行に使われたトラックの運転手で、カージャックの被害に遭い、銃で殺害されていたことが分かっている。 犯行に使用されたトラックはドイツとの国境に近いポーランドの小さな町に拠点を置く運送会社のもので、イタリア北部のトリノで25トンの鉄骨を積み、ベルリンにある鉄鋼メーカーの倉庫に鉄骨を届け、ポーランドに戻る予定だった。トラックの運転手は運送会社社長のいとこで、英ガーディアン紙によると、当初予定していた20日よりも早い19日の午後にベルリンに到着したものの、倉庫の担当者は荷物のおろし作業は予定通り20日にしてほしいと運転手に伝えたのだという。現地時間の14時ごろには市内のレストランで食事をする運転手の写真が、いとこである運送会社社長の携帯電話に送られており、それ以降にカージャックに遭った可能性が高いことを考えると、トラックの強奪からクリスマス市への突入までは、わずか6時間弱だったことになる。 事件発生から間もなくして、過激派組織「イスラム国」(IS)は関連するウェブサイト上で、ベルリンの事件は「我々の戦士の1人が実行した攻撃である」と主張した。組織として実行犯に直接指示を出したのか、ISの活動に共鳴した個人が独断で行った犯行なのかについては依然として不明だが、捜査当局はチュニジア人のアニス・アムリ容疑者が事件に関与した疑いがあるとして、範囲をヨーロッパ全域に拡大して捜査を行った。 容疑者の捜索にはしばらく時間がかかるとの声もあったが、事態は急展開を迎えた。現地時間23日午前3時ごろ、イタリアのミラノ郊外で警察官の職務質問を受けた男性がいきなり発砲を開始。警察官も発砲し、男性はその場で射殺された。数時間後、射殺された男性がアムリ容疑者であったとイタリア当局は断定。ドイツ政府の公式見解は現時点ではまだ発表されていないが、イタリアメディアは死亡した男性が所持していた銃がポーランド人のトラック運転手殺害で使われたものと同型であったと伝えている。アムリ容疑者とみられる男性はフランス経由でミラノに入っていた。 アムリ容疑者らしき男性が射殺された現場から車で10分ほどの場所に住む30代の女性は、筆者の取材に対し、「ついさっき事件のことをニュースで知ってショックを受けています。鉄道駅周辺は深夜は治安が悪いものの、普段んそれほど事件が頻繁に発生する場所でもないので」と驚きを隠せいない様子だった。