小さな幸せに気づける作品 ゴジゲン『雲のふち』大渕夏子インタビュー
11月20日(水) より、下北沢駅前劇場で松居大悟率いるゴジゲン 第19回公演『雲のふち』が上演される。2年半ぶりの本公演となる今作は、「雲と青空の間のぼやけている瞬間を見つめるような劇」となるという。客演として、松居が監督を務める映画『手』にも出演していた大渕夏子が参加。大渕に稽古場の様子や本作の魅力を聞いた。 【全ての写真】ゴジゲン 第19回公演『雲のふち』に出演する大渕夏子 ──まず、『雲のふち』に参加することとなった経緯を教えてください。 大渕 松居さんから「この時期、スケジュール空いてますか? 一緒に劇しませんか?」とご連絡をいただきました。映画でご一緒した後も、私は監督の作品を追いかけていたんです。ゴジゲンの『かえりにち』(2022)を観たとき、「演劇でこんなにも多幸感で満たされるなんて!」と衝撃を受けて、いつか私もこんな作品に携わりたいな、と。 ──では、念願の出演だったわけですね。 大渕 はい。まさかゴジゲンさんとご一緒させていただけるなんて。それだけに、喜びと同時にプレッシャーも大きくて。稽古の前に全員で集まり、各々が今思っていることを話し合える機会があったんです。そこで、「自分がゴジゲンの皆さんの魅力を削いでしまうことにならないか不安です」と率直にお話しました。すると松居さんが、私と、もうひとりの客演の山﨑将平さんのふたりに対して「ゴジゲンの仲間になってくれそうだから声をかけた」と。「ゴジゲンに染まろうとするのではなく、ふたりにはそのままでいてほしい」と言ってくださったんです。その言葉が心底嬉しくて、キャストの皆さんも、スタッフの皆さんも温かく迎え入れてくださったので、不安はだんだんなくなっていきました。 ──憧れのゴジゲンの稽古に参加してみて、どんなことを感じましたか? 大渕 まず稽古が筋トレから始まることが衝撃でした(笑)。筋トレが終わったらゲームをやるんです。善雄善雄さんが毎回オリジナルゲームを提案してくださって、それをひとしきり楽しんでふわっと稽古に入る。初日は私、緊張でガチガチの状態のまま稽古場に向かったのですが、最初から楽しくて力みが少し取れました。そんなふうに始まるのに、立ち稽古が始まると、皆さんの纏う空気と目つきが変わるんです。その緩急が最高にかっこいいなと思いました。 ──ちなみに、いちばん楽しかったゲームは? 大渕 「好きな平仮名を当てるゲーム」という名目で、松居さんの誕生日をサプライズでお祝いしたのが楽しかったですね。スマホに一文字ずつ平仮名を表示させて、「おめでとう」になるようにみんなで平仮名を持ち寄ったのですけど、最後に文字を並べるまで松居さん全然気づかなくて(笑)。気づいた瞬間にとっても嬉しそうな笑顔が見られて、休憩中にみんなでホールケーキを分けて食べて。良い思い出です。 ──松居さんの演出はいかがですか? 大渕 映画でご一緒したときにも感じたのですが、「このように役を作ってきてほしい」という、断定的な要求をしない方なんだな、と。決して考えを否定をせず、役について一緒に考え話し合いながら進めていってくださる方だと思います。今回の稽古でも、各々が持ち寄ったものを話し合いながらよりよいものにしていくという過程がすごく楽しいですね。 ──今作の魅力はどんなところにあると感じていますか? 大渕 私が演じる高校生は、まったくの他人と出会って、会話して、感情が動いていく。なにか大きな事件があるわけではないんです。本当に日常が描かれている。でも、ふと周りを見たらちょっとしたやさしさとか幸せがあることに気づける、そんなちいさな感情に敏感になれる作品だと思います。私自身、何事も器用にこなせる人間じゃなくて、日々心に余裕がなくなりがちで、他人の些細なやさしい言動を見落としてしまっている瞬間が多々あると思うんです。街を歩くときもイヤホンをしてひたすら目的地に向かってしまう。でも、イヤホンを外して視野を広げてみたら、「いまちょっと幸せかも」と思える瞬間が増えるのかも、と稽古をしていて感じます。 ──今作で大渕さんが楽しみにしていることはどんなことでしょう? 大渕 楽しみというか、目指したいことですが……、ゴジゲンの皆さんはアドリブを膨らませて本筋に戻すというのを自由自在にされるんです。今はまだそれになんとか対応するので精一杯ですけど、公演中にはそんなアドリブを楽しめるくらいにはなりたいな、と思います。そして、観てくださる方には、魅力的なキャラクターの日常を覗き見する感覚で見に来ていただいて、下北沢でおいしいものを食べて帰っていただきたいなと思いますね。 取材・文:釣木文恵 撮影:関信行 <公演情報> ゴジゲン第19回公演『雲のふち』 公演期間:2024年11月20日(水)~2024年12月1日(日) 会場:下北沢 駅前劇場