【ビフテキ丼】赤坂の老舗「津つ井」名物のビフテキ丼と有頭海老フライのセットで、新しい世界の扉が開く:パリッコ『今週のハマりメシ』第150回
そして、ビフテキ丼と海老フライのセットが到着。とにかくビフテキ丼のオーラが圧倒的だ。 これが、筒井氏が生み出したビフテキ丼。たまり醤油に、みりん、砂糖などを加えたタレにくぐらせ、網焼きで余分な脂を落としながらレアーに焼き上げた黒毛和牛のロース肉が、これでもかとどんぶりメシの上にのっている。 まずは豆腐と三つ葉入りの赤だしをすすって心を落ち着け、ビフテキをひと切れ持ち上げて、ぱくり。う、うわー! なんだこれは! そりゃあ僕だってこれまでの人生で、それなりにいい肉を食べた経験くらいはある。けれどもそのどれとも違う、未体験の肉だ。 まず、こんなにぶ厚く切られているのに、噛むのが追いつかないくらいに口のなかでじゅわっと溶けてしまう。もはや液体。信じがたい。たれは見た目より甘辛すぎずにあっさりしていて、それゆえ、肉の旨味や甘い香りがものすごく引き立っている。網焼きの香ばしさのアクセントも悶絶ものだ。それらが口から鼻ではなくて、脳に抜ける感じ。やばい。 しかも近年の僕は、サシの入ったいい肉は、最初のひと切れでいいモードになってきた。それ以上は重い。にも関わらず、このビフテキは、するする食べられる。重さを感じているヒマがない。脂を落としながら焼いた効果か、それとも津つ井の料理には、魔法でもかかっているのか。 徐々にバターが溶けだし、控えめにふられたコショウと肉と渾然一体となり、その味は荘厳とすら言える域に達する。たれの染み込んだごはんとのハーモニーには、言葉も出ない。 もうなにも言うことはない。どんぶりに、こんな世界があったのか......。と思いきや、今の僕はなんと、海老フライを食す権利すらも有しているのであった。 酸味おだやかなタルタルソースが独特で、ぶりんぶりんな海老を口いっぱいにほおばると、その旨味が最大限に引き立つ。濃厚なみその風味が味わえる頭もバリバリとかじる。もはや、目をつむってただ味わうことしかできない。食の幸せ、ここに極まれり......。 当然ながら、サラダやお新香の味わいもひとつひとつちゃんとしすぎていた。そんな今日のランチのお会計が、トータルで4830円。食べたからこそ断言できる。安い! たとえば地元の焼肉屋に行ったって、ふらりと入った酒場で2時間くらい飲んだって、このくらいの値段になるのはよくあることだろう。ならばたまには、その金額を思い切って老舗に振る。そこには、僕のような庶民にとって未体験の幸福が待っていることがある。そんなことを実感できた、150回記念のハマりメシだった。 ちなみにこちらのお店、メニューは豊富で、ランチは1000円台からあるので、機会があればぜひ、訪れてみられることをおすすめします。 取材・文・撮影/パリッコ
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