『虎に翼』三山凌輝の“純度の高い正論”が心を動かす 多岐川の熱い胸の内が明らかに
多岐川(滝藤賢一)の人生を変えた戦争孤児との出会い
最後の仕上げに多岐川が持ってきたのは、1枚の絵画。壁にかけられたのは、花岡(岩田剛典)の妻・奈津子(古畑奈和)の作品だ。半分にしたチョコレートを分け合う大人と子どもの手は、花岡家が笑顔になれた瞬間を表している。弔いも兼ねて有志で桂場が相当数の絵を購入していた、その中の1枚だ。「法律っちゅうもんはな、縛られて死ぬためにあるんじゃない。人が幸せになるためにあるんだよ」「法を司る我々は彼の死を非難して怒り続けねばならん。その戒めにこの絵を飾るんだ」と多岐川は愛の裁判所として、家庭裁判所があるべき姿を寅子たちに説く。それは除夜の鐘が鳴り響く頃だった。 一升瓶を抱いて眠る多岐川を横目に、寅子たちは汐見から多岐川の素顔を知ることになる。彼が家庭裁判所の設立準備に邁進する理由には、朝鮮から引き揚げて上野駅に降り立った時に、戦争孤児たちから差し出された手に何もしてあげられることがなかったことにあった。死刑執行のトラウマから凶悪事件を受け持たなくなっていた多岐川が、子供たちを幸せにするために残りの人生を全て捧げよう、未来に種を蒔く仕事をしようと決めた瞬間だった。少年や相談者の生活に目を向けることが、やがて社会の平和、未来の平和に繋がっていく。 昭和24年1月1日。「東京家庭裁判所」と書かれた半紙が入り口に貼られた。「この光景をどうしても君たちと一緒に見たかったんだ」と多岐川が笑う。家庭裁判所が生まれた初めての朝。それはつまり、寅子が桂場と交渉した家庭裁判所が設立された暁には今度こそ裁判官にしてほしいという約束が果たされるということでもある。
渡辺彰浩