高齢者の万引、後絶たず 青森県内過去5年の万引摘発、半数が65歳以上 生活困窮、孤立 背景に
高齢者による万引が青森県内で後を絶たない。過去5年間で万引摘発者の半数は65歳以上が占める。捜査関係者は「万引が若者の犯罪というのは過去の話。全国的に見ても今はほとんどが高齢者だ」とし、専門家は「孤立や生活困窮が背景にある」と語る。 かつては少年の摘発が目立った万引だが、2010年以降は65歳以上の高齢者が上回る。県警によると、高齢者の割合は19年が48.6%、20年53.9%、21年52.8%、22年50.2%、23年52.9%で他の年代と比べ高い傾向が続く。今年は8月末時点で摘発者263人中、65歳以上は125人(47.5%)。被害物品の内訳は半数が食料品、次いで衣料品や医薬品、化粧品だった。 「ギャンブルや酒でお金を使い切ってしまい、誰にも相談できないまま、万引をする単身高齢者が多い」。県地域生活定着支援センターの長内正彦所長代理はこう分析する。センターは各都道府県に設置され、保護観察所などから依頼を受け、罪を犯した高齢者や障害者の居住先確保、福祉サービスの調整、行政手続きを支援し、社会復帰につなげている。 万引などの窃盗事件を起こし、19~23年度に同センターが支援した高齢者は43人。大半は再犯者で、前科10犯以上も少なくない。これらの高齢者に万引の動機を聞いたところ、生活保護費を使い切り生活費が足りなくなるなどの生活困窮が22人で最多。「貯金のため(手持ちの)お金を使いたくなかった」といった節約目的が10人。43人中34人が単身者で、身近に頼れる人や見守ってくれる人がおらず、孤立を深めた結果、犯罪に手を染めている状況が浮かび上がる。 長内所長代理は、再犯防止推進計画や孤立対策など「社会の制度、仕組みづくりは進んでいるが、効果として表れるには時間がかかる。支援につながらず、こぼれている人が何度も罪を犯しているのが現状」と指摘。「事件を起こしてから、生活に苦しんでいたのだと気付かれるケースも多い。孤立を防ぐには高齢者自身の意識を変えることや、地域内でおせっかいを焼いて困っている人がいれば声をかけ合える状況をつくることが大切だ」と語る。 ▼「空腹 耐えきれなかった」青森の70歳男 法廷で動機 「空腹に耐えきれなかった」。青森市内のスーパーで万引をし、窃盗罪に問われた同市の男(70)は法廷で動機を明かした。 男は無職で、年金と生活保護を受給し1人で暮らす。「ぜいたくができないことは分かっていた」。だがある日、これまで万単位は使うことがなかったパチスロで「なぜか熱くなってしまった」。あっという間に手元にあった4万円が消えた。 毎日利用するスーパーに万引目的で向かった。所持金はない。「食べていくために(盗むのは)しょうがない」と自分に言い聞かせ、おにぎり、干物、缶コーヒー(被害額計665円)を手に取り、ズボンのポケットに入れた。警備員に声をかけられ発覚した。 万引以外の方法は考えなかったのか-。公判で弁護人から問われると「友人、知人がいれば(金を借りるのを)頼めるが、そういう人はいない。ギャンブルで金を使ってしまったので市役所にも相談しづらかった」とうつむいた。 男は窃盗で前科5犯。2015年には常習累犯窃盗罪で2年8月の実刑を受けていた。出所から6年余り。またもや犯罪に手を染め、「年齢的に今回が(立ち直る)最後のチャンス」と自覚する。もう繰り返さないか-と弁護人に聞かれ、「約束します」と返した男。11月中旬、懲役1年4月の実刑判決が再び下された。