『ブギウギ』第10週の壮絶な幕開け スズ子の楽団は嵐の船出に、梅吉には“残酷な知らせ”が
「ワテ、歌うわ!」 『ブギウギ』(NHK総合)第1週のタイトルを回収し、戦禍であっても最愛の母・ツヤ(水川あさみ)が好きだった自分の歌を人々に届けていく決意を固めたスズ子(趣里)。しかし、希望の道が開けたと思いきや、第10週ではさらにスズ子を追い詰める出来事が次々と起こる。 【写真】二村(えなりかずき)、一井(陰山泰)、三谷(国木田かっぱ)、福来スズ子(趣里)が事務所で張り切る様子 スズ子はりつ子(菊地凛子)の覚悟が滲む歌にも背中を押され、「福来スズ子とその楽団」を結成。梅丸の頃から一緒だったトランペットの一井(陰山泰)、ピアノの二村(えなりかずき)、ギターの三谷(国木田かっぱ)、ドラムの四条(伊藤えん魔)から成る少数精鋭の楽団だ。 さらに、新たに加わったのが、辛島(安井順平)の紹介でやってきた自称“腕利き”のマネージャー・五木(村上新悟)である。この五木がまた癖のあるキャラクターで、かなりの自信家。自分の手にかかれば、あっという間に公演の予定が埋まると信じて疑わない。そんなもものだから、一度は下宿先を追い出されたものの、諦めずにスズ子のことを追いかけてきた小夜(富田望生)のことも付き人としてあっさりメンバーとして引き入れる。 五木の楽観ぶり、そして小夜の遠慮のなさには呆れるところもあるが、周りの人間は彼らの存在に助けられている部分もあるのだろう。同じく朝ドラの『カムカムエヴリバディ』で戦時下でも自由奔放だった、濱田岳演じるヒロインの兄・算太が「気ままな人じゃけど、今の世にゃあ必要な人材じゃな」と評価されていたのを思い出す。常々、完璧な人間などいないということに気づかせてくれる本作だが、同時に、時と場合によってはその綻びに助けられる人間もいるということを教えてくれる。 しかし、警察の締め付けは厳しくなる一方で、「福来スズ子は敵性音楽を歌っている」という評判がたち、結成からしばらく経ってもスズ子の楽団は一度も公演をできずにいた。大口を叩いていた五木もすっかりお手上げで、梅丸の後ろ盾を失ったスズ子に責任を転嫁する始末。そんな中でも一井は「福来スズ子を信じる気持ちは変わらない」と言ってくれるが、自らの名前を冠した楽団を持つことの責任はますますスズ子に重くのしかかる。 誰もが不安になる中、「あの子は相当“じょっぱり”ですよ」とスズ子のことを善一(草彅剛)に語るりつ子の言葉がどれほど心強かったか。じょっぱりとは、津軽弁で頑固者を意味する、りつ子なりの褒め言葉だ。これまで何かとスズ子に厳しい言葉を投げかけてきたりつ子。だが、時代の流れに逆らってでも自分の歌を届けようと立ち上がった今のスズ子は、りつ子にとって同志のような存在になりつつあるのではないだろうか。実際に、スズ子が一人で歌う「ラッパと娘」には以前のような軽やかな明るさはなく、むしろ「負けてたまるか!」と言わんばかりの反骨心が表れていた。 しかし、そんなスズ子の覚悟が揺らぐような出来事が起きてしまう。六郎(黒崎煌代)に懐いていたという亀を小夜と共に眺めていた梅吉(柳葉敏郎)に届いた残酷な知らせ。それは、戦地に行った六郎の訃報だった。今週のタイトルや予告映像からある程度、予想はできていたとはいえ、初日の放送から『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けを担当する3人も言葉を失うような展開となった第10週。六郎のあの屈託のない笑顔を浮かべながら、どうか間違いであってほしいという一縷の望みに賭けてしまう自分がいる。
苫とり子