『わたしの宝物』北村一輝の言葉を安易に賞賛していいの? 不倫暴露した女を簡単にクズ認定していいの? ドラマの奥深さに感嘆
旦那に主人公の不倫を暴露し、さらに実の子ではないことをほのめかして、視聴者から大バッシングを浴びている女性キャラがいる。 【画像あり】最後までみたい「10月新ドラマ」ランキング『わたしの宝物』は何位? だが、正直、その暴露女がそんなに悪いとも思えない。「女は怖い」「女の敵は女」なんていう安易な定型文でくくってはいけない気がするのだ――。 11月21日(木)に第6話まで放送されている松本若菜主演のドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)。 夫以外の男性との子を妊娠し、夫との子だと偽って産んで育てる「托卵(たくらん)」がテーマ。松本演じる主人公が不倫相手の子を授かり、夫を騙して育てていくストーリーである。 ■序盤ではよき理解者の女友達だったが… 専業主婦の神崎美羽(松本)は夫・神崎宏樹(田中圭)からの辛辣なモラハラに耐える日々を送っていた。そんなとき、中学時代の幼なじみ冬月稜(Snow Man・深澤辰哉)と数十年ぶりに偶然再会。美羽と冬月は一度だけ関係を持ち、彼の子を妊娠する。 だが、冬月が渡航先のアフリカで大規模テロにあい、亡くなったというニュースを知り、美羽は我が子を守り抜くため、宏樹には2人の間にできた子だと偽り、出産。 モラハラ三昧の宏樹だったが、子が産まれたことがきっかけで改心。昔のようなやさしい夫に戻り、美羽と子に愛情を注ぐようになっていく。しかし、実は冬月は生きており、日本に帰って来て美羽と再会し――というのがおおまかなあらすじ。 そんな作品において、ストーリーをダイナミックに “動かす” 役割を担っているのが、美羽の年下の親友・小森真琴(恒松祐里)だ。 真琴は、物語序盤では、美羽のよき理解者の女友達として描かれていた。だが、宏樹に対して恋心を抱き、美羽に嫉妬心が芽生えていたこともあり、第5話で宏樹と2人きりになった際、美羽の不倫を暴露し、子の父親が違う誰かである可能性を示唆したのである。 そうして真実を知ってしまった宏樹は、第6話で子どもと海で無理心中しようとしたり、美羽を家から追い出して離婚危機になったりと、“家庭崩壊5秒前” といった状態に……。 また、第6話の真琴は、まだ自分が子どもの父親だと知らない冬月を呼び出して美羽と2人きりにして、真実を告げるよう、促してもいた。 とにかく真琴の行動で、美羽・宏樹・冬月の精神状態や関係性がしっちゃかめっちゃか。波乱を巻き起こすトラブルメーカーのような言動が多いため、真琴に怒りや不快感を抱く視聴者が続出しているのだ。 ■北村一輝が暴露女に放った言葉が絶賛の嵐 そんななか、視聴者から「名言」だとして賞賛の声が集まったのが、喫茶店マスター(北村一輝)が真琴に対して放った言葉だった。 「あんたなにがしたいの? よその夫婦の話に首突っ込むのもさ、どうかと思うよ。あんたが動けば動くだけ、み~んな不幸になってんじゃないの? 正義振りかざすのもほどほどにしないと。あいつらの正解をさ、あんたが決めんなよ。なっ?」 このようにマスターが暴走ぎみの真琴をたしなめると、よくぞ言ってくれたと溜飲が下がった視聴者が多かった模様。 しかし、筆者は真琴の行動がそんなに悪いとは思えないし、むしろマスターの発言が無責任すぎないかと感じた。 真琴が嫌われる理由は明白で、宏樹に抱いた恋心が暴露のきっかけになっていることが原因に違いない。たしかに宏樹に好きだと告白した流れから不倫を暴露しており、印象が悪くなるような演出がされていたのだから、当然と言えば当然だろう。 けれど、真琴がしたことは、美羽がひた隠している真実を宏樹に伝えただけ。 “真琴憎し” で叩いている人も冷静になって考えてもらいたいのだが、宏樹がずっと我が子だと騙されたまま育て、ずっと偽りの「幸せな生活」を送っていくことを望んでいるわけでもあるまい。 美羽は、バレなければずっと宏樹を騙し続け、その秘密を墓場まで持って行くつもりだったのだから、真琴の暴露がなければ宏樹は一生哀れなピエロのままだった可能性が高い。 ■今夜放送の第7話、夫婦は離婚するのか? そのため、マスターの「あんたが動けば動くだけ、み~んな不幸になってんじゃないの?」は、一見すると宏樹に寄り添った言葉だが、逆に言えば、騙され続ければいいと突き放しているようなもの。 また、「あいつらの正解をさ、あんたが決めんなよ」という発言も、正論のように聞こえるが、違和感が拭えない。 というのも、真琴の暴露で真実を知ったからこそ、美羽と離婚するか、それとも結婚生活を続けていくか、宏樹は自分なりの「正解」を考えられるフェーズに入れたのだ。 もし真実を知らないままだったら、宏樹は美羽による偽りのシナリオにもとづいた「正解」に進んでしまったことになる。宏樹の正解を勝手に決めんなというセリフは、真琴ではなく美羽へ言い放つべきだったのではないか。 そもそも、どんなに善人化したとはいえ、宏樹のモラハラの過去が消えるわけではないし、モラハラされていたからといって美羽の「托卵」が許されるわけでもない。制作陣の演出によって、さも真琴が劇中最大のクズのように印象操作されているが、宏樹が美羽にしたこと、美羽が宏樹にしたことのほうが、よっぽどエグい。 ――今夜放送の第7話の予告動画では、宏樹が美羽に離婚を切り出す様子が描かれている。 本当に離婚するかどうかはまだわからないが、いずれにしても宏樹が自分なりの「正解」を選択できる状況になったのは、暴露女のおかげ。真琴を安易にクズキャラ認定できず、マスターの発言を安易に絶賛できないのが、このドラマの奥深いところでもあるのだ。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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