古今亭志ん松さん、できたくん 先生 ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】古今亭志ん松、できたくんの写真ほか(全11枚)
「七代目誕生へ!」──古今亭志ん松
時を忘れページを捲る手が止まらない小説のように古今亭志ん松さんの落語は瞬時に聴き手の心を掴んで離さない秀逸な表現力がある。柔らかでメリハリのあるリズミカルな語り口と細密精緻な所作で描く高座は登場人物の情景が噺の中に絶妙に配置され物語の推進力が非常に高い。 これまで数多くの落語家さんの経歴を伺うと大きく分けて二通りのタイプがある。以前からの落語マニアか逆にそれまで全く落語に触れたことがなかったかのどちらか。志ん松さんは後者どころか他者と競争するのが嫌いで人付き合いが大の苦手。将来の夢は“孤島の図書館”に勤めることであった。孤島ではなかったが念願叶い大学卒業後、図書館司書となった。日々希望の職種での業務に励んでいたある時、ひょんな事から落語と出会った。勤めていた図書館でいつも落語のCDが貸し出されていたことが気になり落語とはどんなものなのかと初めて耳にしたのが古今亭志ん生、金原亭馬生、二人の名人親子がリレーで演じた『妾馬』だった。そこから次々と落語CDを聴きまくり気付けば都内の寄席の全てに通うほどのめり込んでいた。そして2009年4月、志ん松さん曰く“この人以外は考えられなかった”と直感した六代目・古今亭志ん橋師匠に入門。同年11月楽屋入り、前座名「きょう介」。厳しい前座修業の後、2014年6月「志ん松」で二ツ目に昇進。2024年1月志ん橋師匠死去により三代目 古今亭志ん丸師匠門下に移籍、そして今秋9月下席より真打ち昇進と共に「七代目 古今亭志ん橋」を襲名する。 噺の聴き処が然り気無く配慮された高座は志ん松さんの落語に対しての高い分析力に支えられている。殊に自分の噺を聞くことを重要視し客観的な視点と相対化する思考でキチンと役になっているか、物語に於ける間取りや距離感を確りと掌握できているかを的確に図る。さらに演じる時には予め登場人物同士が分かって喋らないように心掛けることで噺の鮮度を保つことに腐心する。そういった一見気付きづらい細部に凝らされた工夫により物語の厚みは増し深く聴き手の心に浸透していく。 「最終目標を持たないことが目標」とぶれる事なく足元を見つめ、お客さまに楽しんでもらうことを最優先に直向きに目の前の高座に最善を尽くす姿勢を見る度に敬愛する師匠から受け継いだ落語家としての矜持を纏いながら必ずや次世代の落語ファンを魅了するであろう新たなる「古今亭志ん橋」の誕生が待ち遠しくなる。「古今亭志ん松」改メ「七代目 古今亭志ん橋」いよいよこの秋、見参!