社説:女川原発の再稼働 複合災害の不安置き去りか
東北電力が、女川原発(宮城県)2号機の再稼働を進めている。東日本大震災から13年7カ月余り経て、被災地に立地する原発が動くのは初めてである。 世界最悪レベルの過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉としても国内初の再稼働だ。 エネルギー政策の「原発回帰」へ転じた政府は、再稼働拡大の弾みにと歓迎する。だが、いまだ福島事故の収束も見通せない。原発の安全性や避難対策への周辺住民らの懸念が置き去りではないか。 女川原発も東日本大震災で危機にひんしたのを忘れてはなるまい。最大約13メートルの津波が襲い、取水路から海水が流入。起動中の2号機の建屋地下が浸水し、外部電源5回線のうち四つを断たれたが、残った電源で全3基を冷温停止させた。 東北電は、防潮堤のかさ上げなど新規制基準に対応した安全対策を追加した。再稼働に向け、2020年に原子力規制委員会の審査に合格し、宮城県知事は地元同意を表明していた。 だが、原子炉起動から6日目の今月3日、炉内に入れた中性子検出関連機器が途中で動かなくなるトラブルが起きた。炉を止めて調査したのは当然で、ナットが外れたのが原因と発表した。13日に再び起動させた。 震災後に現場社員も世代交代し、運転未経験が4割近いという。細心の点検と慎重を期す作業管理を徹底せねばならない。 周辺住民にとって避難対策にも不安が拭えない。今年1月の能登半島地震では、原発周辺の道路寸断や建物倒壊が相次ぎ、避難計画の不備を露呈した。 女川原発も半島部に立地し、南側の住民は原発そばを通らなければ逃げ場がない。重大事故時は陸路や船で即時に避難を始めるとするが、地震や津波、積雪時や交通渋滞などの影響で、代替策を含め実現可能なのか不安視されている。 そもそも再稼働「合格」の審査結果は、避難計画の実効性を考慮していない。地元自治体は、顕在化した複合災害への対応をはじめ、改めて計画の妥当性や裏付けを確かめるべきだ。 その責任を規制委と原発事業者、政府も負い、担保する仕組みが不可欠ではないか。 福島事故の教訓を踏まえ、歴代政権は原発への「依存度低減」を掲げてきた。だが、22年に脱炭素を理由に前政権が転換させた「最大限活用」方針を石破茂政権も引き継ぐ。女川を皮切りに沸騰水型炉の再稼働を加速させたい考えだ。 同型の中国電力島根原発2号機も来月に再稼働を予定している。 だが、原発の根本的欠陥は何ら解消していない。避難問題に加え、老朽炉の安全性確認、増え続ける「核のごみ」処理なども見通せていない。 これらに向き合わぬまま再稼働の既成事実化を図っても、国民の理解は広がるまい。