Mrs. GREEN APPLE、米津玄師、藤井 風、女王蜂……一人複数役を演じるMVによって深まる解釈
藤井 風、“老人と青年”を演じることで映像化したメッセージ
最後に、藤井 風「満ちてゆく」についても言及したい。本作は愛の矛盾やままならなさを描く映画『四月になれば彼女は』主題歌として書き下ろされ、彼自身が特殊メイクを施して一人二役を演じたMVも注目を集めた。 以前から死生観や無為自然の哲学といったテーマを十八番とする藤井 風だが、これまでにも彼はたびたび、楽曲で生と死にまつわる対比を扱ってきた。その主題において、生と死は相反であると同時に、時にひとつの概念でともに内包される。そんな藤井の大きな特徴のひとつとも言える主張が、今作では顕著だ。〈やがて生死を超えて繋がる〉という歌詞の一節が、特にダイレクトにその価値観を表しているとも言えるだろう。 MVでも、藤井は老人と青年という対比性のある二役を一人で演じている。だが本稿に挙げた他事例との違いとしては、本曲のみ一人二役で同一人物を演じている点だ。その点でも今作のMVは彼が常時発信するメッセージ性を見事に反映しており、曲のテーマを的確に落とし込んだ非常に秀逸な映像となっている。 アーティストのメッセージや楽曲主題の示唆を手助けする、MVにおける一人複数役の手法。今回挙げた曲以外にも同様の表現を用いたものは多数あるため、当該作品に触れた際はテーマを考察するヒントのひとつとして着目してみても面白いだろう。楽曲の新たな解釈の扉を開く、鍵となり得るかもしれない。 ※1:https://natalie.mu/music/news/517405
曽我美なつめ