孫に語る選挙 大人たちの”熱い戦い”についてどう説明するか
「どうして政治の話は人を熱くさせるの?」
困ったことを聞いてきました。投票しようと思っている候補者はいますが、ここでアヤちゃんに伝えたら、家に帰って両親に話すでしょう。自分の娘であるアヤちゃんの母親も、娘婿であるアヤちゃんの父親も、たぶん別の候補者を推しています。 「うーん、それは内緒じゃ。誰を選ぶかは、あんまり言わないほうがいいんじゃ」 「えー、教えてよー。ジイジのいじわる!」 「いじわるで言わないわけではない。政治の話は人を熱くさせる。しなくていいケンカをする羽目になったり、今まで仲が良かった相手と仲が悪くなったりするんじゃ」 「どうして政治の話は人を熱くさせるの? 自分がやってるわけでもないのに」 「政治の話をすると、人は自分が大きくえらくなったような気持ちになるんじゃ。自分の推しの候補者を応援しないヤツはバカだと思ってしまう。反対に、自分が推している候補者を悪く言われると、自分が悪く言われたみたいな気になってものすごく腹が立つ」 「アヤも、自分が好きなプリキュアのキャラクターをお友だちに悪く言われると、すっごく頭に来るよ。それと同じかな」 「そっちのほうが、はるかに健全じゃ。政治の話が好きな大人は、自分を大きく見せたいとか、日々の不満や根の深いコンプレックスを埋め合わせたいとか、そういうセコイ気持ちがある。アヤッペが純粋な気持ちでプリキュアを応援するのとは大違いじゃ」 「へー、大人ってたいへんだね。じゃあさあ、このオバサンがえらい人になるか、こっちのオバサンがなるか、それかこっちのオジサンがなるかで、この町は変わっちゃうの?」
「あんまり変わらんと言えば変わらんかもしれん」
アヤちゃんが掲示板に貼られているポスターの中から、何人かの候補者を指差して聞きました。またまた難しい質問です。 「うーん、変わると言えば変わるし、あんまり変わらんと言えば変わらんかもしれん」 「じゃあ、選挙なんてしなくていいじゃん。あ、そっか、みんなで熱くなって盛り上がりたいんだね。前にみんなでバンザイとかしてるの見たことあるけど、楽しそうだもんね。アヤも、もうすぐ保育園の夏祭りがあるんだ。盆踊りもするよ。ジイジも来てね!」 示唆に富んでいるようなそうでもないような言葉を残して、アヤちゃんは滑り台に走っていきました。源三さんは、あらためてポスターの掲示板を見ました。全部のポスターの顔が、さっきよりも少し恥ずかしそうな表情に見えるのは、きっと気のせいです。 「誰が当選するにしても、子どもたちの未来をよろしく頼んだよ」 源三さんは何人かのポスターに、心の中でそう話しかけました。推しの候補者には、ひときわ念入りに話しかけました。でも、その人も含めて、誰も目を合わせてはくれませんでした。 それはさておきあくまで一般論ですが、住んでいる町で近いうちに選挙がある方は、何はともあれ選挙に行きましょう。