ピノキオピーの10年前のツイートは伏線だった…? / 結成から10年、Royal Scandalが新体制であの曲を
YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで7月19日から7月25日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および急上昇ランキングの中から要注目トピックをピックアップします。 【動画はこちら】白い水着の女性12人が踊る!DJ DOC日本語カバーのMV 文 / 真貝聡 ■ まずはこの週の初登場曲の振り返りから 今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、4位にStray Kidsの「Chk Chk Boom」、15位にJIMIN(BTS)の「Who」とK-POPのトップアーティストたちのMVがランクイン。19位にはSnow Manの「ドレス&タキシード」Rec Ver.、25位になにわ男子の「コイスルヒカリ」とSTARTO ENTERTAINMENT所属グループのMVが登場し、日韓の人気グループの新曲が目立った。 そのほか14位にヨルシカの「忘れてください」がランクインした。これは日本テレビ系ドラマ「GO HOME~警視庁身元不明人相談室~」の主題歌で、いなくなった自分を忘れてほしいと願う歌。擬態するメタがMV監督を務めた、二次元と三次元の映像が融合したオリジナリティの高い映像も話題だ。 20位にはKanariaの「チャンピオン」が登場した。こちらは去年8月31日に始まった、ポケットモンスターと初音ミクのコラボレーション企画「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」の第20弾。シロナ戦のBGMをベースにしつつ、さまざまなポケモンの鳴き声やSEがちりばめられている楽曲だ。対戦時にミクのコスプレをしてくれるシロナの姿にも、大きな反響が起きている。 47位にはあしざるFCの「桃太郎パーティー」がランクインした。聴いていて自然と楽しくなるパーティチューンで、MVでは桃太郎一行のゆるいコスプレをするメンバーたちに癒される。 アイドル、バンド、ボカロなど幅広い楽曲が並んだ今週は下記の3曲をピックアップ。 ■ ピノキオピー「ユーチューバー」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場50位 この曲の舞台は現代ではなく、数十年後の世界で「おじいちゃんはね 昔 ユーチューバーだったんだよ」「おばあちゃんはね 可愛い ブイチューバーだったんだよ」と、かつて動画配信者だった老人がその頃の思い出を若者に語るような歌詞になっている。 驚かされたのは後半の展開だ。「終わってる もう 終わってる X年後に人類が消え去ってる――でも続いてる AIになって まだ動画作ってる 誰も見てないのに更新してる」と、物語は思ってもみない方向に進んでいく。ここまでこの曲を歌っていた登場人物は、実は人間の肉体から解き放たれたAIだったのだ。その後の「ハロー ハロー ハロー ハロー 人間やめても ユーチューバー」もブラックユーモアが効いていて面白い。 ラストに「おじいちゃんはね 昔 ボカロPだったんだよ」というピノキオピー自身の言葉のような歌詞と、「あっそ」という無関心そうな若者の反応でオチがつけられたこの曲。ちなみにピノキオピーは10年前の2014年にTwitter(現X)で「おじいちゃんはね・・ 昔ボーカロイドの曲作ってたんだよ・・」と投稿しており、このツイートを発見したリスナーの間で「あのつぶやきは、今回の伏線だったのでは」という説が浮上している。 ■ CYBERJAPAN DANCERS「Bounce!」ダンスバージョンMV ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場54位 韓国のヒップホップグループ・DJ DOCが2000年に発表して現地で大ヒットを記録した「Run To You」を、CYBERJAPAN DANCERSが正式カバーした。日本ではDJ OZMAが2006年に「アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士」というタイトルでカバーしたことでも知られているパーティソングだが、彼女たちの明るくポジティブな雰囲気が、楽曲と見事にマッチしている。 MVはダンスバージョンの前に通常のものも公開されているのだが、特にダンスバージョンが爆発的に再生数を伸ばしている。この動画ではビキニを着用してダンスしているため、1人ひとりのスタイルのよさが際立つだけでなく、踊っているときの指先や腰回りなど繊細な動きも確認できる。 DJ DOCを懐かしむ人々にリーチしたようで、こちらの映像は日本だけでなく韓国でも話題になっており、韓国のYouTubeチャートでは7月20日付のデイリーランキングで2位、ウィークリーランキングでも7位にランクインしている。YouTubeのコメント欄には韓国語で「24年前の歌をカバーしてもらって嬉しい」と感謝をするコメントや、英語で「とても美しいMVだ」と賞賛する声が上がっており、彼女たちの存在が海外でも認められているのがわかる。 ■ Royal Scandal「アンチ・クイーンオブハート feat. Fuki」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場86位 「アンチ・クイーンオブハート feat. Fuki」はRoyal Scandalの初作品「クイーンオブハート」の発表10周年を記念して作られた楽曲。これまでボーカルを務めていたluzが今年1月に逮捕されたことを機に、Royal Scandalは彼との関係を終了しており、この曲はRoyal Scandal史上初のゲストボーカルとしてFuki(Unlucky Morpheus)を迎えて制作された。 「アンチ・クイーンオブハート」には「クイーンオブハート」と対になっているフレーズが随所に見られる。例えば、原曲では「誠意」を「あい」と読んでいたのに対して今回は「愛」を「せいい」と読んでいたり、「犯さぬように、穢さぬように」が「冒さぬように、怪我さぬように」と同音で表記が変わって別の意味になっていたり。2つの曲を比べることで面白みが格段に増すような仕掛けが施されているのだ。 YouTubeのコメント欄では「『クイーンオブハート』では艶かしい女に見えていた彼女が実は強く優しい母だったことが、ボーカリストを変えることでも表現されているように感じられてよかった」といったFukiに対する好意的な声や、「原曲では自分の欲望に忠実で残酷に描写されていたチェルシーママが、今回は泣きながら手を伸ばしてるのが意味深すぎる……」とMVについて考察する声も上がっている。中心メンバーである奏音69はInstagramで「10年前、クイーンオブハートの歌詞にちょっとだけ遊びを仕込んでおきました」と投稿しているので、もしかしたら「クイーンオブハート」にもまだ何か知られざる要素が隠されているのかもしれない。 なお7月28日には「アンチ・クイーンオブハート」のボーカロイドバージョンのMVも公開されている。このMVはFukiボーカル版とは一部異なる新演出が含まれているので、合わせてチェックしてみよう。 Royal Scandalは今後、奏音69とRAHWIAの2名が残り、ボーカルは固定せず楽曲ごとのコンセプトに合った人を“キャストボーカル”として招いて活動していくという。ただし、過去音源を使用することは権利的に難しくなるため、これまでの楽曲は自主レーベルにて再構築し、新キャストボーカル・新MVにて再発表していくとのこと。また、これまではリスナーが自由に想像できるようにストーリーやキャラクターの詳細はあえて明かしてこなかったが、今後は過去作を含む全エピソードのあらすじ、登場済みキャラクターの詳細なプロフィールを順次公開し、キャラクターをメインとしたグッズの発売、Royal Scandal初の小説化など、新しい企画を始動するそうだ。大きな目標として、音楽と物語を融合させた“舞台化”を目指していくとのことで、彼らがどんなエンタテインメントを届けてくれるのか、これからの展開に期待したい。 ■ 真貝聡 ライター / インタビュアー。雑誌やWebで執筆するほか、MOROHA「其ノ灯、暮ラシ」、BiSH「SHAPE OF LOVE」、PEDRO「SKYFISH GIRL-THE MOVIE-」といったドキュメンタリー映像作品や、テレビ特番「Mrs. GREEN APPLE ~Review of エデンの園~」にインタビュアーとして参加している。