アジアの脱炭素化へ具体策急ぐ 首相肝いり、目玉は再エネ送電網 台頭中国を牽制
日本主導でアジアの脱炭素化を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想が具体化に向け動き出す。岸田文雄首相は5日、AZECの今後10年の行動方針を年内にまとめる考えを表明した。再生可能エネルギーの導入を促す送電網の整備などが柱となる見通しだ。日本は脱炭素分野でアジア各国と同志国として連携し、台頭する中国を牽制する。 ■送電網整備が目玉 首相は経団連がアジア各国の経済団体首脳らを招いて東京都内で開いた「アジア・ビジネス・サミット」で講演し、AZECについて「今後10年を見据えた具体的な行動方針を関係国間で合意したい」と述べた。今秋にラオスで開催する方向で調整中の首脳会議での合意を目指すとみられる。 行動方針に向けて、首相は電力、運輸、産業の3部門で協力計画をまとめるよう提案。この協力計画では、再エネ事業を後押しする送電網の整備が目玉となる見通しだ。 東南アジアは風力などの発電所が消費地の都市部から遠いことが多く、送電網の増強で再エネ利用を促す。東南アジア諸国連合(ASEAN)は域内の送電網構想「ASEANパワーグリッド」を進めており、日本政府関係者は「構想への貢献は念頭にある」と話す。 ■特定国に依存しない供給網を また首相は、二酸化炭素(CO2)を国境を越えて輸送、貯留するためのインフラ、ルール整備の必要性も訴えた。排出量取引も含め「共通のインフラとルールでつながる共通のアジア市場を作り出す」と意気込んだ。 AZECは首相が提唱し、日本や東南アジアなど11カ国で立ち上げた。参加国の多くは電源構成に占める石炭や天然ガスの割合が高い。脱炭素に向けて再エネ導入を急ぐ欧州などに対し、火力発電を活用しながら排出削減を進める現実路線の陣営を作る狙いがある。 AZECはエネルギー安全保障の観点からも重要性が高い。太陽光や風力発電など再エネの関連製品は現在、中国が安さを武器に世界市場で高いシェアを握る。アジアでは送電事業などでも存在感を急速に増している。 日本政府は中国を念頭に、AZECを通じて最先端の再エネ技術や製品をアジア各国に普及させ、特定国に依存しない供給網の構築を目指す。(中村智隆)