日本からデカコーンは生まれるか? 有力候補、マネーフォワードとフリーを徹底分析
ChatGPTで名をはせる米OpenAIや、英フィンテック企業Revolut、TikTokを運営する中国のByteDance――。世界には「デカコーン」と呼ばれる、評価額が100億ドル(約1兆5000億円)以上のスタートアップ企業が50社ほど存在する。 【画像】コンピュータの進化と参入事業者 前回の記事「評価額100億ドル以上の「デカコーン」企業、なぜ日本から生まれないのか?」では、デカコーンが日本から生まれてこない背景について解説した。起業家を取り巻く国内の環境が、大きな市場に挑戦しづらいものになっているというのが大きな要因だ。 こうした中、デカコーン規模の時価総額企業へと成長を目指す姿勢が顕著に見られる、マネーフォワードとフリーの2社に着目してみたい。 株式時価総額の推移を見ると、フリーが上場した2019年末から2021年前半ごろまでは、マネーフォワードがフリーを追いかける形だった。しかし、2022年後半から逆にフリーがマネーフォワードを追いかけるようになった。この背景を分析し、スタートアップがデカコーンに向かう上で、何が必要かを考えてみたい。
マネーフォワードとフリーの株式時価総額が逆転した
2022年後半以降、マネーフォワード(下図:青線)がフリー(同赤線)を、株式時価総額で逆転した。理由は以下の2点だ。 (1)資本市場でテック企業に対する評価の目線が変わった。2021年までは売上高成長率や最大市場規模が重視されていたが、2022年以降はさらに収益性も重視されるという急激な変化が起きた。 (2)成長率と収益性を評価する「Rule of 40」という指標において、マネーフォワードとフリーが2022年に逆転した。 米国ではSaaS企業の評価として年間定期収益(Annual Recurring Revenue:ARR、※1)とその倍率であるARRマルチプルの乗算で考えられることが多い。企業の株価を計算する際に一般的に使われるNPVやPER、PBRといった指標は、実はSaaS企業への評価には使いづらい(※2)。 ARRマルチプルの妥当性を考えるための指標は、株式市場の状況や投資家の性質によって変化する。 2021年末をピークに、世界のハイテク銘柄に影響を与えるNASDAQ総合指数(※3、上図:緑破線)はしばらく落ち込んだ。米国でコロナ対策の金融緩和で豊富な資金に支えられ成長性一辺倒だった株式市場が、金融緩和解除で調整局面に入り、収益性も重視するようになったためだ。 SaaS企業の成長性と収益性の双方を評価するには、一般的に「Rule of 40」と呼ばれる指標が参考に用いられることが多い。Rule of 40は、成長性をARR(年間定期収益)の前年と比べたときの成長率と、今年の利益率の和で求められる。企業のサービス利用が広がりARRが伸びたり、収益率が改善したりするとRule of 40が改善する。 下図で分かる通り、Rule of 40(下図:折れ線・左軸)の実際の動きをみると、マネーフォワードは2022年第4四半期以降フリーに対して勝っている。これはまさに、マネーフォワードとフリーの株式時価総額が逆転し、その差が開き始めたタイミングだ。ARR(下図:縦棒・右軸)も2023年末に、マネーフォワードとフリーはほぼ同額になっている。 (※1)定期購入サービスなどにより継続的に得られると期待される売上高。一過性のコンサルティングサービスなどの売上は含まれない。 (※2)NPVは、将来のキャッシュフローをリスクで割り戻すことで得られる。キャッシュフローの推定に必要な売り上げは顧客数x顧客1人当たりの生涯価値(LTV)で理論上は計算される。LTVは顧客単価を解約率で割り戻すと得られる。しかしSaaS企業では、優良なサービスでは顧客単価が次第に向上し、解約率が低下するし、逆に劣悪なサービスや競合が現れると顧客単価が下がり解約率が上がるケースもあり、予測が難しい。PERは、そもそも利益が出ていない際には計算が難しい。企業のB/S上の純資産から計算するPBRも、B/SにSaaS企業で価値を生む資産である顧客基盤が反映されないため、実体を捉えているものとは言えない。 (※3)米国の新興企業向けの株式市場ナスダックに上場している全ての銘柄を対象とし、時価総額加重平均で算出したもの。マネーフォワード、フリー両社共に、上場後海外の機関投資家から資金を調達しており、米国の株式市場の影響を受けやすい。