楳図さん死去にホラー漫画家仲間もショック 「富江」の伊藤潤二氏「ホラーの草分けであり頂点」
「漂流教室」「まことちゃん」などで独自の作風を築いた漫画、芸術界の巨匠・楳図かずお(本名・楳図一雄=うめず・かずお)さんが10月28日、死去した。88歳。漫画界からも悼む声が上がった。ホラー漫画家で「富江」や「うずまき」などで知られる伊藤潤二さん(61)が本紙の取材に楳図ワールドの魅力と、感謝の思いを語った。 【写真】最近亡くなった主な漫画家 楳図かずお先生は、私が恐らく生まれて初めて読んだ漫画「ミイラ先生」の作者でした。それから一気に楳図先生のホラー漫画の虜になりました。その後も先生の漫画を読み続け、さらに作品の素晴らしさに気づいていきました。 楳図先生は日本のホラー漫画の草分けであり、草分けにして既に頂点を極めた方でした。背景の闇の表現や、まがまがしい擬音のデザインなど、ホラー漫画の表現方法を開拓し、その影響力は凄いと思います。先生が生み出した物を、先生以後のホラー漫画家の多くが継承していると思います。 ホラー漫画の幅を広げられた方だったことは間違いないと思います。土着伝承の要素が大きかった初期作品から、やがて人間心理の内面の怖さを描く比重が大きくなり、さらにSFの要素も拡大して、スケールが増していきました。先生と対談した際は「家の中で起きるのがホラーで、家の外で起きるのがSF」というような意味のことをおっしゃっていました。すごく分かりやすい分類だと思いました。 作品はとても深いテーマを扱ったものが多いですが、それが小難しくならないのは、分かりやすい提示できる手腕によることもあるのかなと思いました。 私にとって楳図先生の魅力は、美しいものとグロテスクなものとが対比をなしながらも、見事に共存している画風、論理的な思考から生まれる巧みなストーリー、そしてあっと驚くアイデアなどですね。一言では言えない魅力があります。 日本の漫画界では、早い時期から娯楽にとどまらず、漫画を芸術たらしめた作家で、闇が煌々(こうこう)と輝くような画風は、他には類を見ないものだと思います。 4度ほどお目にかかりましたが、3度目を特に記憶しています。「マザー」という映画を監督された頃だったと思いますが、まことちゃんハウスで対談させていただき、その後編集さんを交えて吉祥寺のレストランでイタリアンをご馳走になりました。漫画制作の裏話や、海外旅行の思い出話をうかがいました。フランスでは、「ムッシュー」「マダム」という挨拶が大事だともおっしゃっておました。語り口も物腰もとても繊細な先生でした。私の人生の最良の時がその時でした。 最近はお目にかかることはなかったですが、先生と近しい方から近況をうかがうことはありました。お元気そうなので安心しておりましたが、急なことで残念です。 88歳という事でしたが、楳図先生にはもっとご活躍していただきたかったです。残念です。心からご冥福をお祈りいたします。 《巨匠・日野日出志氏「言葉にならない」》「蔵六の奇病」「地獄の子守唄」などで知られる巨匠・日野日出志さん(78)は本紙の取材に「言葉にならない」と一瞬沈黙。「対談させていただいたり、何かのビデオの撮影でお互いに妖怪のような格好をしたり、一緒に泊まったり、良くしていただいた。“妖怪漫画の水木さん、恐怖漫画の楳図、怪奇漫画の日野”と言ってもらえてうれしかった」と懐かしんだ。短編の多い自身と対照的に「長編を書くのが上手い方。物語を引っ張っていく力は、自分にはないものだった。相当な努力もしておられたんでしょうけどね。とてもリスペクトしていた方です」と語った。