『マイハル』佐弥子が教えてくれた自分の道の選び方 拍手を送りたくなる見事なラストに
それでこそ我らが白玉佐弥子! そう拍手を送りたくなるラストだった。火曜ドラマ『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)最終回。佐弥子(広瀬アリス)は言った「やっぱ私は、私らしくないと、私じゃないかもって」と。 【写真】佐弥子(広瀬アリス)の手伝いをする拓(道枝駿佑) 誰もが自分の思うように人生を歩んでいきたいと願う。しかしながら、本当に自分が進みたい道を選ぶには勇気が必要だ。その選択が自分の歩みたかった道なのかどうか、進んでみなければわからないこともある。ガムシャラに歩んでみたけれど、やっぱり違った……なんてことも。でも、そんな回り道に感じられることだって、決して無駄なことではないし、むしろその歩みがあったからこそ、本当に進みたかった道が見えてくるもの。そのときどきに「これだ」と思った道を進んでいいのだと、佐弥子に教えてもらったような気がする。 「消化試合みたいな人生」から一念発起して、大学生になった佐弥子。そんな思い切った一歩を踏み出した彼女でさえも、いざ就職活動となると大いに迷うことになった。30代なかばでの未経験・新卒採用という現実は想像以上に厳しく、もはや無職を避けるべく手当たり次第に応募するしかない状態に。そんななか、運良く内定が出たのはなんと大手設計事務所。しかし最初こそ喜んだものの、次第にそこで働く自分を現実的に考えるようになっていくと、果たしてやりたかった仕事なのかと疑問が浮かぶのだった。 サグラダファミリ家のメンバーの進路が様々なように、ひとことに「建築」と言っても、その選択肢は広い。街のランドマークや多くの人の生活を支えるような大きな案件を手掛ける仕事もあれば、個人宅の新築やリフォームといった小さな案件まで。佐弥子が楽しいと思えるのは目の前の人に「ありがとう」と言われる後者の仕事。なのに、就職先は世界を舞台にした前者タイプ。そのミスマッチに薄々気づきながらも、“せっかく大手に受かったのだから、ここでまずはキャリアを築いて……”という思いで動けずにいた。 並行して、女性としての人生設計にも迷いを持っていた佐弥子。拓(道枝駿佑)の足かせにならないように、そして自分自身も拓に縛られずに建築家として歩めるように別れを決断したはずだった。そんな傷心した自分を支えてくれた日向(安藤政信)からの告白。このまま日向と結婚をして妊娠・出産という道も十分幸せなのではないか、なんて考えがよぎったことだろう。そんな迷える佐弥子の背中を再び拓(道枝駿佑)の言葉が押すのだった。「みんなが通る道より、自分の歩きたい道を歩きなよ」。どんなに建前の言葉を並べたところで、自分の中にある「楽しい」や「好き」には抗えない。大手の就職先、落ち着いている日向との未来……きっと安定性は抜群だ。でも、佐弥子の「楽しい」は小さな個人事務所を営む折戸(田中美佐子)との仕事だし、「好き」なのはずっと拓なのだ。 もちろん、いろんな考え方がある。「せっかく大手に受かったのに」「せっかく日向さんという結婚に最適な相手が見つかったのに」と、その選択肢を手放すことをもったいないと思う人もいるだろう。だが、その選択の先に続く人生を歩むのは佐弥子自身にほかならない。たとえ、もったいないと言われる結果になったとしても、それも彼女の人生の糧となる。第二の青春、人生の宝物となった、この大学生生活のように。 だからといって、最愛の拓からのプロポーズにも食い気味で「断る」と答えたのは思わず笑ってしまった。お互いに変わらず想い合っていることを確認し、それぞれの歩む道も見えた今のタイミングなら、と思ったであろう拓の「えっ!?」もごもっともだ。しかし、佐弥子に「そこはまだ私が歩きたい道じゃないから。まず私は一人前の白玉佐弥子になりたいの。だからそれまで待って」なんて言われたら、自ら「自分の歩みたい道を歩きなよ」と言った手前、「わかったよ」と言わないわけにはいかない。そして同時に、拓はそんな佐弥子を見て、きっと“どこまでも素直でかわいい人だ”と思ったことだろう。 拓は、スイスに向かう前に佐弥子を「自分のものにしたくて指輪を渡そうとした」と言った。そして、スイスから一時帰国したあのときも……。でも、いずれのタイミングでも上手くいかなかったように思う。なぜなら拓も佐弥子も歩みたい道を見極めきれておらず、ましてや相手の歩みを尊重することも難しかった気がするのだ。佐弥子には佐弥子の人生があって、拓にも拓の人生がある。そうして、それぞれが歩みを心から応援し、その道が重なったタイミングで家族として歩み出せばいいということに、今だからこそ納得できているように見える。 それは、5年後か、10年後か。あるいは、拓がスイスで早々に結果を出したように、思ったよりも早くなるかもしれない。佐弥子と拓の「ぐりこジャンケン」は先に行ったと思ったら、いきなり追いついたりするものだから。それまで、拓は毎日「結婚しよう」と言い続けるという。「結婚してめでたしめでたし」なハッピーエンドもいいが、プロポーズの日々が続く「マイ・サード・アオハル」のハッピースタートとでも呼びたくなるような展開なのも2人らしくていい。そう、卒業は新たな章の始まりのタイミング。このドラマを観終えた私たちも、自分の歩みたい道に向かってハッピースタートを切ろうではないか。
佐藤結衣