「どうしてこんなにいつもお金ないんやろう」夢のお部屋探し、ついに譲れないものにたどり着く【坂口涼太郎エッセイ】
我にかえって見つめ直したものは
なおかつ、物件を探し始めて改めて思ったのは今住んでいる部屋がとっても好きだということ。一人で暮らすには十分だし、この部屋には30歳になる年の2020年4月1日から初めての一人暮らしとして住み始めた。それまでは実家に甘えられるだけ甘えて、親の脛を齧り尽くす“親の脛かじり虫”と化して「あんたいつ出ていくのん?」と言われては「おーん」とよくわからない鳴き声をあげながら返答を先延ばしにし、実家のお世話になれるだけなって、ようやく一人で暮らしていけるのではないかというお給料をもらえるようになり、満を持して引っ越した瞬間に「家から出ないでください」という通達が世界から出された。 ありあまるほど自宅の環境を整える時間があったので、粛々とお気に入りのインテリアを収集する為にチャリを爆走させたり、私にとって聖人君子な宅配業者の皆様にお力添えいただき、住環境は整いすぎるほど整えることができた。 そのお気に入りに囲まれた部屋のベランダで夕焼けを見ては短歌を詠んでみたり、ピアノを弾いて歌を作ってみたり、土井善晴先生のレシピを順番に作ってみたり、ワンルームの部屋を工夫してリモートワークやテレビ番組の為にその都度模様替えぐらいの勢いでカメラの画角を試行錯誤し、あたかも「3DKです」みたいな感じに撮影したり、たくさんの今につながる色々が生まれて、楽しい時もしんどい時も、安らぐ為に全力を尽くした甲斐あって、ぐっすりと眠ることができた。 そんな愛着もあるわけやし、今の自分に見合ったこの部屋をもう一度見直してみよう。まだできることがあるかもしれない。折りたためる机を買って、ベッドを椅子代りにして執筆ができるかもしれない。「諦める」とは「明らかにする」こと。今あるものに目を向けて、自分の性格や経済力や現実にも目を向けて、今ある環境と状態を明らかにして、お金がないのに引っ越そうとする暴挙になんか出ず、手の届かない憧れをちゃんとあきらめて、今ある環境の中で工夫して生活していこう。
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