ロシアの新型原子力潜水艦「ヤーセン級」初確認 海自八戸(青森県)哨戒機、宗谷海峡で撮影
ロシアの新型原子力潜水艦「ヤーセン級」が北海道の宗谷海峡を浮上航行している姿が13日までに、海上自衛隊八戸航空基地の哨戒機P3Cによって撮影された。戦略的価値が高い潜水艦の行動は軍事機密とされ、しかもヤーセン級のような最新鋭の攻撃型原潜が海上に姿を見せるのは極めてまれで海自にとっても初確認。軍事専門家は「宗谷海峡は水深が浅いのに対してヤーセン級は大型。操艦上の関係から浮上せざるを得なかったのではないか」と分析。津軽海峡ではなくより北の宗谷海峡をあえて航路に選んだ背景には近年の日ロ関係の緊張もありそうだ。 ヤーセン級原潜が確認されたのは11日午前8時ごろ。宗谷岬の北東約80キロのオホーツク海から日本海に向かって西進し海峡を抜けた。ウダロイ級フリゲート艦など3隻が同行した。同海峡近くの礼文島周辺では9月、ロシア軍哨戒機の領空侵犯事件が発生したが、同海峡中央は国際海峡のため潜水艦といえど通航することに問題はない。 ヤーセン級は2014年に配備が始まった第4世代の攻撃型原潜。各種資料によると全長約119~139メートル、全幅12~15メートル、水中排水量1万3800トン。ロシア海軍は「静粛性に極めて優れた戦術巡航ミサイル大型多目的攻撃原潜」と位置付けている。 詳細は不明だが、4隻以上が前線配備に就いており、うち1~2隻が太平洋艦隊に展開。弾道ミサイルを搭載する戦略型原潜とともにカムチャツカ半島のペトロハバロフスク・カムチャツキーを拠点としている。宗谷海峡を通ったのはこの中の1隻とみられる。 疑問点は軍事機密である原潜がなぜ姿を暴露する危険を冒してまで浮上航行したのか。海自元幹部で軍事研究家の文谷数重(もんたにすうちょう)さんは宗谷海峡の水深の浅さを指摘。「海峡の最も狭い部分の水深は42メートルにすぎない。長さ130メートルでセイルまでの高さが13メートル以上ある大型潜水艦が通るには浅くて、艦底をこすったり海面に飛び出す不測の事態さえ考えられる。それを避けるため速度を抑えると今度はかじが利きにくくなり、他の艦船との衝突さえ想定される。そんな危険を避けるためあえて浮上航行したのではないか」と説明する。 同海峡では22年に通常動力型のキロ級潜水艦(全長約70メートル、水中排水量3950トン)が浮上航行しているのが確認されている。同艦はヤーセン級より二回り以上小型で小回りが利く。 「小ぶりのキロ級でさえ安全を優先して浮上したということは、それだけ宗谷海峡が浅くて潜水艦に適していないということではないか。それならば最大水深が450メートルある津軽海峡を水中航行すれば目立たないようなものだが、同海峡には海自の高度な潜水艦探知システムがありすぐにキャッチされる。いずれにしても日ロ関係が良好ではない中、日本にとって防衛上の核心部分にある津軽海峡を通ることを避けたかったのではないか」と話す。