「日高屋」のロードサイド店拡大は原価率抑制に心血を注ぐ「幸楽苑」と同じ轍を踏むことになるか…デフレ下で成長した飲食店がぶち当たる壁とは
ロードサイド店はリピーター創出がカギとなる
幸楽苑は2023年4-9月に4億円の営業赤字を出している。2024年3月期は5000万円というギリギリの営業黒字を見込んでいるが、1億5000万円の純損失を計上する見込みだ。 通期の売上高は265億円を予想。この金額はコロナ禍を迎える前2019年3月期の6割の水準に留まっている。 ロードサイド型は繁華街型に比べて回転率が低い。カウンターが少なく、複数人が座る席が多いために1人で来店すると4人掛けのテーブル席につくこともあるため、店舗の運営効率が悪くなりがちだ。 ガテン系の顧客を狙い撃ちする山岡家は、ターゲットに合致する店舗づくりを行うことができる。しかし、“安い”がセールスポイントの幸楽苑のような店舗の場合、客層にばらつきがあるために席の配置が難しくなる。 また、人流が限られるロードサイド店はリピーターの創出がカギとなる。山岡家はクセになる味でファンやリピーターを獲得できたが、万人受けを狙う店舗はどうしても新規客がメインになる。それでも“安い”をフックに集客できればいいが、回転率が少しでも落ちると立ちどころに不採算店となる。 しかも、ロードサイド店は店舗面積が広い一方で、スタッフの数は限られるため、隅々まで目が届かなくなりがちだ。繁盛していない店は活気がなくなって衛生面でも劣ることがある。それが客離れを加速させるという、悪循環に陥りがちなのである。 日高屋は高回転かつアルコール需要の獲得で、業績を拡大してきた。ロードサイド型はその強みのどちらも活かせないのだ。
「飲食店で安く食べたい」からの消費者意識の変化
バランスよく運営している中華料理店といえば王将フードサービスだ。2024年3月期の売上高は1013億円を予想している。初の1000億円を突破する見込みだ。王将はコロナ禍の2021年3月期でも6%程度の減収に留めた驚異的な会社である。 商環境が激変する中でテイクアウト・デリバリーの需要をいち早く獲得したことが窮地を救うことになったが、王将の強さは客単価の高さにも表れている。 王将は2021年3月期に客単価が1000円を超えた。日高屋は800円前後だ。幸楽苑も日高屋と同水準だと予想できる。直営店1店舗当たりの売上を見ると、客単価の違いによる業績への影響が明らかになる。 2023年上半期において、直営店の売上高から直営店数を割って1店舗当たりの売上推定値を出すと、王将は8300万円、日高屋は5300万円、幸楽苑は3100万円となる。これが、1店舗が半年で稼ぐ金額の目安だ。王将は圧倒的な収益力で他店を引き離している。 日高屋と幸楽苑は、原価率の抑制に心血を注いできた会社だ。日高屋の原価率は27.8%、幸楽苑が28.8%だ。王将は31.8%である。両者ともにデフレ下で価格を勝負に勢力を拡大してきた。原価を切り詰め、安く提供するビジネスモデルを構築したのだ。しかし、「外食くらいは贅沢に」という消費者意識の高まりとともに、少しお金をかけても美味しいものを食べたいという需要が高まっている。 日高屋が今のビジネスモデルを堅持したまま、ロードサイド店へと軸足を移すのは難易度が高いと言えるだろう。同社の分水嶺を迎えているのは間違いない。 取材・文/不破聡