箏奏者・木村麻耶が奏でる千変万化の旋律 2代目野坂操壽に師事 二十五絃箏のバッハ「シャコンヌ」に世界から賞賛
箏奏者の木村麻耶が二十五絃箏で弾くバッハの「シャコンヌ」が見事だ。インパクトのあるテーマ旋律が千変万化しながら、光と影、緊張感や哀愁を漂わせ、時に強くそして優しく響く低音と呼応したり溶け合ったり…。新アルバム「光る空」に収録され、プロモーション動画には世界中から称賛のコメントが寄せられている。 組曲「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の難曲で、ピアノや管弦楽、ギター用に編曲されて名盤も複数ある。だが、箏では聴いたことがない。 「名匠イツァーク・パールマンさんの演奏に感動して、どうしても弾いてみたくて…」と木村。ギターの名手カール・シャイトのギター編曲譜で試行錯誤を繰り返した。「難しかったのは曲の流れが途切れることなく、調弦しながら演奏することです」 二十五絃箏は、箏曲家で文化功労者の2代目野坂操壽(そうじゅ)が開発。旧来の箏は十三絃で音域が狭く、約2オクターブ半。現代曲やクラシック曲では出せない音が多い。そこで20年余の歳月をかけて低弦を徐々に増やし、音域を1オクターブほど広げて1991年完成。胴の長さはどちらも約180センチだが、胴幅は40センチで13センチ広く、音量も大きい。弦間隔は4ミリずつ狭くて1.5センチだ。若手奏者がポップス、ジャズなどを演奏する時代になった。一般への浸透はこれからだ。 「中学生の頃に野坂先生の演奏を生で聴いたとき、素晴らしくて感動。先生が教えておられた桐朋学園芸術短期大学に進学しました。レッスンは厳しかったけれど愛情深く、音楽への熱意も人一倍。卒業後、演奏会でのミスを引きずっていた時期に『楽器を信じなさい』と励ましてくださって…。信じて自由に表現しなさいという意味だと思い、その言葉を紙に書いて部屋の壁に貼っていましたね(笑)」 アルバムには伊福部昭の「物云舞(ものいうまい)」、オリジナル「光る空」などの現代物から、古典の八橋検校「乱(みだれ)」まで幅広い曲が盛り込まれ、聴き応えたっぷり。 木村の「シャコンヌ」は、新たな扉を開けた。チャレンジを続けてほしい。 (原納暢子)