『名探偵コナン』における怪盗キッドの立ち位置とは 『まじっく快斗』から変化した人物像
名探偵コナン vs. 怪盗キッド。青山剛昌の漫画を原作にしたアニメ『名探偵コナン』シリーズでも屈指の激突が、4月12日に公開予定の映画『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ))』でまたしても繰り広げられる。高校生探偵の服部平次も絡んで三つ巴のバトルになりそうな映画だが、やはり気になるのはコナンとキッドの対決とその行方。出会いからこれまで何度も繰り返されてきた激突を振り返れば、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』がどれだけ期待されているかも見えてくる。 【写真】『100万ドルの五稜星』場面写真(複数あり) 灰原哀が堅守するか、怪盗キッドが追い抜くか。映画『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は、『名探偵コナン』という作品の中で1番の人気者は誰かを、改めて考えるきっかけをくれる作品になりそうだ。 2023年公開の映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が、灰原哀と黒ずくめの組織の関わりを描き、138億円の興行収入を上げてコナン映画初の100億円超えを達成。怪盗キッドが活躍した2019年の映画『名探偵コナン 紺色の拳』の93億円に45億円もの差を付けた。 灰原哀の魅力が全世界的に広まったことの表として、灰原哀のファンには嬉しい状況だが、青山剛昌作品の読者を長く続けている人は、灰原哀よりもコナンよりも古い主人公が後続に甘んじている状況に、忸怩たる思いを抱いているはずだ。 怪盗キッドが世の中に登場したのは、『名探偵コナン』よりも7年前の1987年。高校生の黒羽快斗が表で手品師をやりながら、裏では泥棒として活動していた父親の後を継ぐ形で、怪盗キッドになるという漫画『まじっく快斗』の主人公として、『週刊少年サンデー』に初登場した。 以後、『週刊少年サンデー増刊号』で2年ほど連載された後、1988年から1993年まで続いた『YAIBA』や、1994年から始まった『名探偵コナン』の合間を縫うようにして新作が発表されている。1月24日には、『名探偵コナン』の公式X(旧Twitter)アカウントで、「4月10日零時、7年ぶりにあの連載が帰ってくる。」という言葉とともに、怪盗キッドのマークが発信されてファンの期待を誘っている。 怪盗キッドが登場する4月12日公開の『100万ドルの五稜星』に合わせた展開と言えそうで、ストーリーも映画と絡むものになるのかに注目が集まっている。ただし、『まじっく快斗』として掲載される以上、怪盗キッドがコナンや平次の上に立って、堂々の主役ぶりを見せてくれると信じたい。 ●『まじっく快斗』から変化した“怪盗キッド”のキャラクター像 ただ、『名探偵コナン』のシリーズに絡むようになって、怪盗キッドの立ち位置や存在感も、だんだんと変わってきていることは確かだ。『まじっく快斗』の頃は、同級生で幼なじみの中森青子の目を逃れ、青子の父親で先代キッドの頃から捜査を続けて来た中森銀三警部も出し抜いて、盗みを働く活躍ぶりを描くコメディタッチのアンチヒーロー作品だった。絵柄もキャラクターの等身が低く、丸っこくて愛らしさを感じさた。 これが、1997年に連載中の漫画『名探偵コナン』に登場した時は、不敵な笑みを浮かべ何もかも見透かしたような目を持つクールでキザな怪盗となっていて、豪華客船から宝石を盗みだそうとしてコナンと激突し、痛み分けのような形で対戦を終える。TVアニメでは第76話「コナン vs. 怪盗キッド」として描かれ、劇場公開中のTVシリーズ特別編終版『名探偵コナン vs. 怪盗キッド』でも上映されるエピソード。この怪盗キッドには、学園ラブコメの登場人物のようだった初期の面影はない。 それは、『まじっく快斗』に、まだ高校生探偵だった工藤新一が登場した1999年掲載の「ブラック・スターの巻」前後編にも言える。アニメでは、公開中の『名探偵コナン vs. 怪盗キッド』で上映される、TVシリーズの2時間スペシャル「集められた名探偵! 工藤新一 vs. 怪盗キッド」に該当するエピソード。時計台から宝石を盗みだそうとする展開の中で、怪盗キッドがスパイ映画のようなスリリングなアクションを見せてくれる。 黒ずくめの組織という殺人も辞さない集団に追われているというシリアスな設定や、毎回のように人が殺されコナンが解決するという甘くない展開を持った『名探偵コナン』の世界に登場する上で、怪盗キッドの立ち位置も、クールなものにならざるを得なかった。その立ち位置は、『まじっく快斗』の世界にも持ち込まれ、漫画としての絵柄やキャラクターとしての雰囲気を変え、宝石ばかり狙う泥棒という設定も立った。そんなところだろう。 そして現在、『名探偵コナン』が青山剛昌作品でもっとも認知度が高く、人気もあってファンの数も多い作品になっている中で、怪盗キッドも『名探偵コナン』の世界の登場人物のひとりになってしまった感がある。仕方がないところだが、だからといって灰原哀や黒ずくめの組織、安室透に赤井秀一といったキャラクターの後塵を拝していいということはない。コナンの唯一無二のライバルとして並び立ってほしいところだ。 そうした意識は作者の青山剛昌にも、アニメの作り手にも多分あって、映画の『名探偵コナン」シリーズでも怪盗キッドは度々メインキャラクターとして登場し、コナンと対決したり共闘したりといった活躍を見せてくれる。最近では、2015年公開の映画『名探偵コナン 業火の向日葵』で、ゴッホの名作「ひまわり」がすべて日本に集まるというストーリーの上で大活躍を見せる。もしも怪盗キッドがいなかったら、世界の至宝は永遠に失われてしまったかもしれない。 2019年の映画『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』では、工藤新一に変装して毛利蘭とシンガポールに旅行するという大胆不敵な行動を見せ、江戸川コナンとしてすら側にいられない本物の新一を悔しがらせる。さすがは怪盗キッドといったところだが、『紺青の拳』ではもうひとり、京極真という空手の達人も絡んで、コナン、怪盗キッドと三つ巴の関係になる。京極のファンには嬉しい映画だったが、怪盗キッドの見せ場は当然に薄くなる。真の恋人で怪盗キッドのファンの鈴木園子だけが、大喜びの展開だったかもしれない。 それでも、怪盗キッドがフィーチャーされていたことでファンも喜び、前年の映画『名探偵コナン ゼロの執行人』の91億円を上回る当時としては最高の93億円の興行収入を稼ぎ出した。この記録は、赤井ファミリーが勢揃いした2022年公開の映画『名探偵コナン 緋色の弾丸』に97億円で上回られ、そして『紺青の拳』の立川譲監督が再び立った『黒鉄の魚影』によって一気に差を付けられた。怪盗キッド好きとしてこれはやはり一大事だ。 だからこそ、『100万ドルの五稜星』には怪盗キッドのファンの意地が問われる。西の高校生探偵として数々の事件に江戸川コナンといっしょに挑んできた服部平次も加わることで三つ巴の戦いになりそうだが、その中でも怪盗キッドが抜きん出てくれることを、ファンは願っているだろう。平次のファンも同様。もちろんコナンも。そうしたファンの結束と、超人気剣士の土方歳三を支持するファンの参入が、映画『名探偵コナン』シリーズの興行記録を塗り替え、100万ドル(約1億4800万円)どころか1億ドルの興行収入を稼いで『黒鉄の魚影』超えを果たすのか。 4月12日の公開が楽しみだ。
タニグチリウイチ