【山口県】実は「酔い客の転落防止」 下松駅の不思議な「逆向きベンチ」 ホーム幅の狭さで向き変えられず
ホーム幅の狭さで向き変えられず
「なぜこのベンチは電車に背を向けているのか」―山口県下松市のJR山陽本線下松駅の利用客から、こんな疑問が寄せられた。下りの1番ホームにあるベンチは、なぜか電車側に背を向けており、確かに不思議だ。なぜこんな配置になっているのかを、関係者に聞いてみた。 (山上達也)
日立製の鉄道車両の「甲種輸送出発駅」
下松駅は127年前の1897年に開業。駅舎は県内では2例だけの「橋上駅」だ。駅構内と日立製作所笠戸事業所の間には専用線(引き込み線)があり、同事業所で製造された鉄道車両がJR在来線や私鉄線向けに輸送されている。このため同駅は「甲種鉄道車両輸送列車」の始発駅に指定されている。 現在は専任の駅長は不在で、JR西日本中国交通サービス㈱の業務委託駅。下松駅など近隣15駅の駅長を徳山駅長が「管理駅長」として兼務している。
かつては線路があったベンチ正面
話題の「電車に背を向けたベンチ」がある1番ホームは、一辺のみ線路に面し、もう一辺には線路がなくフェンスが張られている。しかしよく見るとなんとなく、昔は線路があったようなスペースを感じる。 駅を出てフェンスの向こうを歩くと、駅の上り方面にも下り方面にも途中で切断された線路があり「ホームのフェンスの向こうには線路があったのだろう」と想像できる。往時は乗降客も多く、きっと今より多くのホームがあったのだろう。 下松駅の近くの駅で勤務経験があるJRのOB男性は「もともとベンチが向いている方向にも線路が敷かれ、電車が止まっていた。その後に線路が撤去されたが、ベンチはそのままになった」と記憶をたどる。 ではなぜ、ベンチの方向を180度回さなかったのだろうか。
乗客「アナウンスや音で電車わかる」
別のOB男性は「当時も今も、酔っ払い客がベンチから立つ時によろけ、ホームから線路に転落する事故が多い。その危険性は下松駅も例外ではない」という。OB男性によると、全国的には転落防止対策にベンチを90度転回して線路と垂直の方向にするパターンが多いが、下松駅はホームの幅が狭いため、90度回すのは無理だったようだ。 JR西日本広島支社は本紙の取材に「こうしたケースは当社の管内にも多く、お客様の安全対策上、最良の方法を取っています」という。1日に取材に応じた乗客の女子高校生は「電車が来る時はアナウンスやレールの音でわかるから、電車を背にしていても不自由はないです」と話していた。