BABYMETALの「プロ意識の高さ」に感銘 映画『ヘヴィ・トリップ』続編の監督&主演が語る撮影秘話
一度もステージに立ったことのないフィンランドの田舎のヘヴィメタルバンド、インペイルド・レクタム(直腸陥没)がノルウェー最大のメタルフェスに参加するべく奮闘する珍道中を描いた『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』。いくつもの映画祭で賞を受賞し、フィンランド国内のみならず、日本を含む海外でもヒット。多大なヘヴィメタル愛と美学を持った個性派集団、インペイルド・レクタムのメンバーに魅せられるオーディエンスが続出し、メンバーのコスプレをして映画を楽しむ通称“ヘヴィ・トリッパー”たちの姿も見られた。 【画像を見る】歴代最高のメタルアルバム100選 1作目の日本初公開から5年。続編『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』はインペイルド・レクタムのメンバーがライブ直後に逮捕、拘束された前作のラストシーンの続き、刑務所からスタートする。現存するドイツ北部のヴァッケンで毎年開催されているメタルフェス「ヴァッケン・オープン・エア」の出演を目指すインペイルド・レクタムの珍道中は前作よりスケールアップ。劇中には日本からBABYMETAL、スウェーデンからはベテランオカルトロックバンドYEAR OF THE GOATが出演、“超大電導波デスボイス”を操るオリジナルバンド、ブラッドモーターも登場する等、迫力あるライブシーンも見どころだ。ユーソ・ラーティオ監督とインペイルド・レクタムのボーカル、トゥロ役のヨハンネス・ホロパイネンにインタビューした。 ―1作目の『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』の反響をどう感じていましたか? ユーソ・ラーティオ:まさかフィンランドの国外で受けるとは思ってもいませんでした。もしかしたら一部のアンダーグラウンドなメタルファンには受けるかもしれないとは思っていましたが、ここまで大ヒットするとは全く予想していませんでした。 ヨハンネス・ホロパイネン:撮影していてとても楽しい映画でした。創造性と心を込めた作品が世界中の多くの人に受け入れられたことでとても勇気づけられましたし、気持ちを共有できたことはとても素晴らしい経験です。SNSを通じて日本、南米、ドイツから多くのメッセージをもらって驚きました。特に日本からのメッセージは情熱的で、インペイルド・レクタムのメンバーのコスプレをした写真が送られてきたこともありました。テキサスで開催しているサウス・バイ・サウスウエストで1作目を上映したところ、すごく盛り上がって成功を確信しました。世界中の映画祭に出品されていくつも賞をもらいましたが、評論家が選ぶ賞ではなく、観客が選ぶ賞をもらえたのが嬉しかったですね。 ―続編を作ることになったタイミングはいつだったんでしょう? ユーソ:1作目が既に公開されていた2019年の初頭に初めてそういう話が出ました。僕は別の映画の脚本を書いていたんですが、ある日プロデューサーからランチに誘われて「1作目がドイツで大ヒットしてるのでドイツを舞台にした続編を作らないか?」と持ち掛けられました。すぐに2作目の脚本を書き始めましたね。ドイツでメタルといったら、ヴァッケン・オープン・エアを舞台にするのが自然だろうと思いました。 ヨハンネス:ユーソとは1作目の撮影で友人関係になり、頻繁に連絡を取り合っていたので、プロデューサーから続編の話をされて2作目の脚本を書き始めていたことは早くから知ってました。「実際に続編が作れることになったらいいな」と期待していたところ、数年後に制作費が確保できて実現することになったんです。またみんなと一緒にこの映画を作れたのはビッグイベントでした。 ユーソ:インペイルド・レクタムのメンバーの4人があの衣装を着て一同に介しているのを見てすごく感動しました。 ―BABYMETALの出演はどういう経緯で決まったんですか? ユーソ:元々僕はBABYMETALのファンで、続編の脚本を書く中でベースのクシュトラックスのメタルの価値観を揺るがすようなバンドを登場させようと思いました。BABYMETALはまさにそういうバンドなので、当初脚本には「BABYMETALのようなバンド」って書いてあったんです。そこからしばらくして、プロデューサーが「BABYMETALに出演してもらえるかもしれない」と言われました。BABYMETALのプロデューサーのKOBAMETALさんは1作目を劇場で見てくれていて、続編も駄作にはならないだろうと思ったそうで、BABYMETALの出演をOKしてくれたんですね。それでリトアニアでBABYMETALの出演シーンの撮影をしたんですが、今でも出てもらえたことが信じられないです。 ―監督はいつBABYMETALのファンになったんですか? ユーソ:おそらく10年前ぐらいですね。僕がこれまで聞いてきた音楽とは全く違うユニークな音楽だと思ったし、でも間違いなくヘヴィな音楽でもあると思いました。思わず足でリズムを取りたくなるような楽しさを感じました。 ―撮影の時に直接ファンだということは伝えたんですか? ユーソ:ストレートにファンだとは言わなかったけど、一緒に写真を撮ってもらったりサインをしてもらったのでファンだってことは伝わっていると思います(笑)。 ―BABYMETALのメンバーのお芝居にはどんな印象がありましたか? ユーソ:撮影現場がとにかく暑くて、スタッフはみんなTシャツやタンクトップ姿だったんです。彼女たちに「かなり暑いけど大丈夫?」って聞いたら「慣れてるから大丈夫」と言っていて、プロ意識の高さを感じました。強い照明が当たっていたのでかなり暑かったはずです。彼女たちにとって演技は本職ではないけれど、やるべきことをしっかりやってくれました。僕より全然うまいと思いましたね(笑)。 ヨハンネス:撮影現場で「出てくれてありがとう」と伝えたんですが、とても誠実でフレンドリーな方たちでしたね。しかも地に足がついている感じがしました。僕もBABYMETALの音楽はとても好きなので、直接交流ができたのは良い思い出です。 ユーソ:SU-METALさんはリーダーのようなエネルギーがあって、MOAMETALさんはクール、MOMOMETALさんはファニーな魅力を感じます。劇中でもそれぞれのキャラクターをしっかり出してくれて、すごく魅力的なお芝居でしたね。 ―ヨハンネスさんは『ヘヴィ・トリップ』シリーズに出演したことでメタルのイメージが変わったところはありましたか? ヨハンネス:1作目に出演するまではメタルのことをよく知っていたわけではないんですが、トゥロを演じるにあたってトレーナーに付いてもらってメタル特有の歌い方を練習しました。教えてもらったことで一番大きかったことは、内なる野獣を解き放つということでした。心の100%を歌に注ぎ込む必要があるし、自分の心に疑いを持ってはいけないんです。且つ、しっかりと歌い方をマスターしないと喉の筋肉を傷つけてしまう。そして、時にはリラックスする必要があるんですよね。お芝居もリラックスして愛を込めて行うものだと思っているんですが、それと一緒で怯えていたら良い演技ができないし、良い歌が歌えないんです。『ヘヴィ・トリップ』に出演したことでメタルをよく聞くようになりました。撮影中や渋滞に巻き込まれた時に聞くことが多いですね。 ―おふたりが思うメタルの魅力と一番好きなメタルバンドを教えてください。 ユーソ:僕は大人になってからメタルを聞き始めたんですが、メタルにはまず豊かなミュージシャンシップが宿っていて高い演奏技術があります。あと、人の心を駆り立てるドライブ感がある。例えばベッドで寝ている時にメタルを聞くと起きる気力が生まれてくるんですよね。好きなメタルバンドは死ぬほどいるのでひとつだけに絞るのは無理です(笑)。ただ、好きなアルバムは『ヘヴィ・トリップ』のロットヴォネンがジャケットのアートワークのTシャツを着ているメガデスの『ラスト・イン・ピース』ですね。 ヨハンネス:メタルに限らず、音楽は人間の内面を表現したものだと思うので、感情を受け取ることが大事だと思うんです。特にバンドの音楽はそういうものだと思う。例えばAC/DCの『バック・イン・ブラック』はバンドの内面がとてもはっきりと出ていて、それをリスナーが受け止めて心と心が共鳴するようなアルバムだと思っています。ロックは特に個人主義な音楽だと思うし、年齢関係なく心が動かされるエバーグリーンな魅力がありますよね。だからこそ、『ヘヴィ・トリップ』はメタルが題材ではありますが、人生を描いた映画でもあると思っています。 『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』 12月20日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開 製作:カイ・ヌールドベリ、カールレ・アホ 監督・脚本:ユッカ・ヴィドゥグレン、ユーソ・ラーティオ 出演:ヨハンネス・ホロパイネン、マックス・オヴァスカ、サムリ・ヤスキーオ、チケ・オハンウェ、 アナトーレ・タウプマン、ヘレン・ビースベッツ、ダーヴィト・ブレディン、JUSSI69、 SU-METAL (BABYMETAL)、MOAMETAL (BABYMETAL)、MOMOMETAL (BABYMETAL) 他 字幕翻訳:堀田雅子 字幕監修:増田勇一 後援:フィンランド大使館 共同提供:キングレコード+スペースシャワーネットワーク 宣伝:HaTaKaTa 配給:SPACE SHOWER FILMS 【2024年|フィンランド映画|96分|カラー|スコープ|DCP|原題:HEAVIER TRIP】
Kaori Komatsu