<前人未到に挑む―センバツ東海大福岡>/下 各リーダー中心に主体的に考え動く 全員野球「俺たちならやれる」 /福岡
ナイターに照らされた夕方の東海大福岡の野球場。部員約50人が次々と集まってくると、主将の井上和翔捕手(2年)を中心に各部門のリーダー7人が声を出し合いながら練習に励む。監督やコーチの指示を待つこともなくスタメンと補欠の区別もせず、みんなが班ごとに同じように取り組む。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 全員で同じメニューに取り組むのは、中村謙三監督が「同じ練習をさせれば、全員がポジションを争う。全員がレギュラー」と公平にチャンスを与えたいと考えるからだ。「試合途中にベンチから出てくる選手が活躍しないと勝てないし、チーム全体が同じ方向を向くこともできない」。 チーム発足時、主将や副主将2人の他、打撃や守備、走塁、生活など各部門のリーダーを決めた。役割を持つことで自ら考えて動き、「やらされる練習」からの脱却を目指してきた。 チームは2023年秋の福岡大会を制し、九州地区大会の4強に進むまで大逆転の試合を繰り返してきた。福岡大会準々決勝の筑陽学園戦は、四回まで3点差を追いかける展開ながら逆転勝ち。この試合で選手には「最後まであきらめない」という意識が芽生えた。 九州地区大会準々決勝の九州学院戦は4―8で迎えた九回、途中出場の唐崎敦士選手(同)の3点本塁打で同点に追いつき、延長十回タイブレークで勝ち越し。相手を追う展開でもベンチに焦りはなく、「俺たちならやれる」という雰囲気があった。唐崎選手も日ごろから主体的に練習に取り組み、自信を持って打席に立てたから逆転できたと振り返る。井上主将を中心とする全員野球は「ピンチはいつもチャンス」ととらえる心の強さも育んできた。 崎村諭部長は「野球はチームスポーツだが、打席や守備などでは一人。誰も助けてはくれない。試合の流れを自ら読みながら、頭で考えて状況判断することがプレーに現れるようになってきた」と評価する。井上主将も「指導者に怒られないためにプレーするのではなく、自分がこうなりたいという理想、自分たちがうまくなりたいという理想が原動力」とみんなの心を代弁する。 福岡大会と九州地区大会を通じた弱点は、失点につながっていた四死球と失策の多さだった。「打率10割は目指せなくても、守備率10割は目指せる」。この冬は基本練習に立ち返り、アウトを確実に取ることを意識して守備練習にも力を入れてきた。 弱点を克服しながら、主体性を重んじる東海大福岡の全員野球が、甲子園の舞台に花を咲かせる。【長岡健太郎】 〔福岡都市圏版〕