〝おもしろい〟は老若男女共通!世代を超えて楽しみたいNHK大河ドラマ『光る君へ』
いよいよ、来週7日から放送が開始される第63作目のNHK大河ドラマ『光る君へ』。今回は、本作の脚本を担当した大石静さんに聞いた、登場人物のキャラクターや、本作を通じてみんなに伝えたいことなどをお届けするよ! ■史実や史跡からも受け取った先人たちからのパワー ―大石さんから見た紫式部はどのような人物ですか? ひと言では表現できないから〝紫式部〟なんですよね。 ただ、幼(おさな)き日に母を亡(な)くしたらしい、これも情報がはっきりないのですが。貧(まず)しい暮(く)らしだった、というところあたりから『生きてゆくことはとても不条理(ふじょうり)なことなんだ』ということを知ってしまった女の子かなと思います。 「一生懸命、真っすぐ向かいます!」という子ではなく、「人生は思い通りにいかない・・・」という、ものの見方で少女期を過ごし、その沸々(ふつふつ)とした想いを、文学者として表現していく。「誰(だれ)かの妻(つま)になりたい」だけでない『私の使命(しめい)は何だろうか?』という想いをもった知的レベルの高い女の人だと思います。 また、道長のことをずっと好きで、道長も何度も自分の妻になれと言いますが、それを受け入れません。「道長には嫡妻(ちゃくさい)以外にもたくさんの女性がいるところに、私は不自由な想いをしたくない」ときっぱりいいます。(脚本を)書きながらも『ここで行けばいいのに!』と思うほど、自我(じが)の強い女性に感じます。 ―道長のキャラクターで核(かく)となっているところはどこですか? 藤原道長という人物は『此の世をば 我が世とぞ思ふ望月の かけたることも 無しと思へば』という詩から、中・高校の教科書にも掲載されるほど、大変傲慢(ごうまん)な独裁政治をやったという印象が強くあります。皆が平安時代のことをよく知らずに、詩一首で、藤原家が横暴な政治を行ったと考えられています。 時代考証の倉本先生からも「決してそうではない」とお聞きしました。災害時には庶民のために助け小屋が作られるなど、レベルや意識の高い政治が行われていた。約400年にわたって大きな戦が無い、話し合いによって物事を解決していくという、今の私たちだって考えていかなくてはいけないことをやっていた時代だと。 三郎が1話で言うセリフ「俺は怒るのが好きではないから」というのが、道長の政治の根本です。道長はバランスを取ることが上手で、天皇が間違った時には諫(いさ)めることができる優れた政治家として、このドラマで描くことによって、平安時代の認識を改めたいと思っています。 ―大石先生は、道長の字からどのようなことを感じ取りましたか? 道長は字がヘタなんですが、そこが可愛いところですよね。 時の権力者が、書いたり消したり、あちらこちらに書いてみたり・・・しているのに、あんまり上手くない。そういうところも愛おしいなと思いました。 私が一番道長に『書け!と言われている』と感じたのは、道長のお墓を訪れた時でした。 京都の住宅地にあるんです。ポコッとそこだけ小さな森のようになっていました。 この時、柄本さんはまだ決まっていなかったので吉高さんと一緒に訪れたのですが、その前に立った時に『わぁ、ここだ!ここに道長がいる!書けと言われている!』と思いました。 ―前熊克哉さん演じる直秀もまた魅力的なキャラクターだと感じましたが、モデルとなる人物はいますか? 当時、下級も含め貴族と呼ばれる人たちは、1000人程度しかいなかったそうです。具体的に全国の人口がどの程度いたかは分かっていませんが、恐らく全体の0.01%だったと考えられます。その1000人だけの世界を描いていては偏(かたよ)っているなと思いました。 当時の庶民の視点を出しておかなくてはいけないと思い、スタッフの方々と会議したうえで設定したのが散楽(さんがく)と呼ばれる人々でした。政治や社会の矛盾に対して批判的な心を持っている市民は当時ほとんどいなかったと聞きましたが、一人もいないとは言い切れず、そういうし思想を持った人を出さないとバランスが悪いなと思い設定した人物です。 ■1000年の時を経ても変わらない〝人間の葛藤〟と今こそ変えたい〝イメージ〟 ―今までの大河ドラマファンを意識したり、その逆で新たな大河ドラマファン獲得の意識はしましたか? 「大河ドラマは必ず観る」という層がいますよね。当然、その方々を手放してはならないと思っています。一方で、韓流などの時代劇ラブストーリーが好きな方々にも観て頂きたいとも思っています。ただ、私は〝おもしろいものを作れば子どもから大人も観る〟と思って(脚本を)書いています。 『どうする、家康』の中で「我々はこの100年の戦乱の世を、自ら作り出した魔物である」と家康も言っていましたが、乱世(らんせ)の時代だけがハラハラドキドキして面白いのかというと、そうでもないと思うんです。 人間というのは1000年経ってもそう変わりはしません。 平安時代からすれば宮廷(きゅうてい)の中が会社、戦国時代からすればお城の中が会社、偉(え)くなりたいという人は必ずいます。(いつの時代も)誰よりも偉くなりたいとか、足を引っ張ったり、権謀術策(けんぼうじゅっすう)で誰かを失脚(しっきゃく)させたり、左遷(させん)させたりすることはあるんですよね。 現代作品の中で権力闘争(けんりょくとうそう)といえば、山崎豊子さんの『華麗なる一族』(新潮文庫)がありますよね。そういう争いが藤原家の中でも行われていて、道隆・道兼・道長の三兄弟も政治的な駆(か)け引きをしながら偉くなっていきます。 戦のシーンはほとんどありませんが、行われている人間の葛藤(かっとう)や、足の引っ張り合いは同じくらいスリリングにあると思います。 ―全体的なテーマや、このドラマを通じて訴えたいことは何でしょうか? 平安時代の印象を変えたいというのが一つあります。 それから、藤原道長のイメージも変えたいとも思っています。 紫式部は、権力批判(けんりょくひはん)の考え方が強い文学者だと思っています。文学には、自分が得意とする要素や、自己否定の部分もなくてはいけない。紫式部が人生を通して、そういう奥深い作品を書いたからこそ世界的に評価されているのだと思います。 また、紫式部はユネスコの「世界の偉人」にも選ばれた人物です。『源氏物語』は恋愛の印象が強いですが、行間に彼女が込めた、深い人生哲学なんだということを示したいです。 ―子どもたちが観るうえで、「ぜひみて欲しい!」というポイントがあれば教えて下さい。 先ほども述べたように『おもしろいものは、大人も子どもも観る』と考えているので、(あえて)お子さんに向けてということは一切考えません。 ただ、小さい子がまず画面に惹(ひ)かれるとすれば、すっごく綺麗な画面!『こういうところだったんだ!』と感じ取ってもらえるのではないかなと思います。 また、御簾越(みすぎ)しで天皇と話すとか、そういうことをお子さんたちは歴史のお勉強として、敏感(びんかん)に受け取ってくれるのではないかと思っています。 「紫式部の生きた平安時代についてもっと知りたい」という方は 『歴史人Kids』vol.2やWEBもチェックしてね! https://rekishijinkids.com/
歴史人Kids編集部