映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 ―「違国日記」
わかり合えないまま寄り添っていく二人
事故で両親を亡くした中学生の朝(早瀬憩)。親戚間を《たらい回し》にされそうなところ、何かに突き動かされて決然と引き取ったのが、交流があったわけでもない叔母で小説家の槙生(新垣結衣)だった――。ヤマシタトモコのコミックを映画化した「違国日記」は、二人の同居を描いていく。 とはいえ一般的な〝交流〞のイメージは馴染まない。朝は感じやすい十代、槙生はコミュ障がちな三十代で、ぎこちないスタートは当然。しかも槙生は〝真っ当〞だった姉、すなわち朝の母と衝突し、嫌ってきた。朝を愛せるかもわからず、「あなたの感情も、私の感情も、自分だけのものだから、分かち合うことはできない」と伝える。朝は面食らうが、槙生を非情や非道などとラベリングするなかれ、正直で芯が強く、朝に真っすぐに向き合う。安い道徳を盲信した〝感動作〞のキャラとは一線を画する、孤独な誇り高さに打たれる。
そんな槙生がまとう殻に、無邪気な好奇心で接していく朝。大人のイメージを叔母に打ち砕かれ、高校でえみり(小宮山莉渚)ら同級生のさまざまな顔に触れ、軽音楽部で創作に目覚める。槙生と友人の奈々(夏帆)に呼ばれ、川の向こうからベースギターを背負って小走りでやってくるワンショット。心弾ませて訪れた槙生のサイン会で、槙生のかつての恋人・笠町君(瀬戸康史)の姿を認め、彼とは反対側へそそくさと立ち去る姿。戸惑いながら世界を発見していくその尊さに、思わずため息が出る。ガッキーの魅力は言わずもがな、新人の早瀬憩は大いなる発見。創意と的確さが引き合う瀬田なつき監督の演出はさすが。 叔母と姪、大人と子ども、そんな分類を誰が決めた? 槙生は槙生、朝は朝、そして槙生と朝だ。たらいは回され回り、垣根を越えていく。そして転覆したら、晴れ間が広がった。 文=広岡歩 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年7月号より転載)
「違国日記」 【あらすじ】 両親を交通事故で亡くした15歳の朝。葬儀の席で親戚らが心ない言葉を投げる中、叔母の槙生は言い放つ。「あなたを愛せるかどうかはわからない。でも私は決してあなたを踏みにじらない」。こうしてほぼ初対面ながら二人の同居が始まるが、槙生は人見知り、朝は人懐こく素直とまさに対照的で、戸惑いの連続。それでも少しずつ距離を縮めるが……。 【STAFF & CAST】 監督・脚本・編集:瀬田なつき 出演:新垣結衣、早瀬憩、夏帆、瀬戸康史、小宮山莉渚 ほか 配給:東京テアトル、ショウゲート 日本/2024年/139分/G 6月7日(金)より全国にて順次公開て順次公開 Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会
キネマ旬報社