ともに初役で熱演する俊寛役の勘九郎（手前2人目）と丹左衛門役の七之助（右）＝鹿児島・硫黄島

歌舞伎俳優、中村勘九郎（42）と中村七之助（41）が22日、鹿児島県三島村硫黄島で三島村歌舞伎「『平家女護島　俊寛』」を上演した。主人公、俊寛僧都の流刑の地として知られる同島の砂浜を舞台にした野外公演は13年ぶりで、父、中村勘三郎さん（享年57）の十三回忌追善興行の大千秋楽として実現。雨が止み、満天の星空の下、初役で俊寛を務めた勘九郎は「きょうできたことは奇跡。父も見守ってくれていたと思う」と胸を熱くした。 5分で完売したツアー客300人と島民ら計500人の拍手が平安末期、平家打倒の陰謀に加わった俊寛の流刑伝説の地に響き渡る。 島の南側の砂浜に松や竹を飾った舞台を設営。自らの代わりに娘、千鳥（中村鶴松、29）を赦免船に乗せ、島に残る俊寛が「お～い、お～い」と見送る場面では、本物の小型船を使う粋な演出で観客を約900年前に誘った。 「三島村歌舞伎」は1996年5月、勘三郎さん（当時の勘九郎）によって初めて行われ、今回が2011年10月22日以来3度目。勘三郎さんは「チャンスがあれば15年後、15歳になる孫の七緒八（現・勘太郎、13）と一緒にここで演じたい」と3度目の上演を熱望したが、12年12月に帰らぬ人となった。 そんな父の願いを第1回から出演している兄弟は、今年2月から始まった十三回忌追善興行の大千秋楽で結実。 強風で1日遅れの硫黄島入りになった勘九郎、七之助らは稽古前に俊寛の住まいの跡に墓を移した俊寛堂を参拝。大雨から一転、青空が広がった砂浜の舞台で本番さながらの稽古を繰り広げた。 いざ上演が始まり、祖父の衣装、父の頭（鬘）と杖を身に着けた俊寛を初役で演じる勘九郎が舞台に現れると、大きな拍手。赦免使・丹左衛門尉基康役の七之助や、丹波少将成経役を初役で務めた勘九郎の長男、勘太郎らが、波音が響く野趣あふれた〝劇場〟で観客を前のめりにした。 約90分の舞台を終えた勘九郎は、再び舞台に現れると星が煌めく空を見上げ、「本当に今日できたことは奇跡。父が見守ってくれていたと思います」と感無量。 13年前の勘三郎さんの言葉を紹介し、「父の約束通り、七緒八が勘太郎になって連れてこられたことうれしく思います」と言葉を重ねつつ、「ここで問題があります。（次男の）長三郎が妬きましてね。『ぼくはじいちゃまを知らないし、俊寛にも出られない』って。かわいそうなんです。なので願わくば、彼を連れて戻ってきたい」と約束。〝待ってる〟の温かい拍手がいつまでも鳴り響いた。（栗原智恵子）