「会社は創業家のものじゃない」地場最大手の手袋メーカーが選んだ会社売却 経営のプロ集団に成長託す
後継者を確保できない地元の同業者は、廃業か倒産を選んできた。「スワニーがうらやましい」「うちは買ってくれないよな」「看板企業のオーナーが代わると、他社も次々身売りするのでは」。周囲の受け止めは羨望、諦め、不安が入り交じる。 板野さんは、そうした反応に理解を示しつつ「M&Aという選択肢を知ってもらいたかった。グローバル企業として成長を目指すなら(後継者が)社内の人材では限界がある。あのときの決断が正しかったと言ってもらえる日が来る」と信じている。 ▽地方企業から世界を目指す 6月にスワニーの4代目社長になった神尊裕史さん(56)は伊藤忠商事出身で、直近は各種ユニホームを作る会社を経営していた。東京暮らしが長く「四国に移るのはハードルが高かった」と明かす。ただ最終的には「スワニーの経営を任せてもらうミッションの魅力が勝った」と話した。 神尊さんに自信の程を尋ねると、力強い答えが返ってきた。「板野さんの決断を尊重するとともに、85年を超える歴史があるスワニーのかじ取りを担う責任を感じている。社員と板野さんが築いてきた土台の上に中長期的思考と目標設定を加えることで、さらなるグローバルな成長を目指せると確信している」と語った。
JPiXからは経営を担う人材も派遣された。スワニーの取締役に就任した雲井雄基さんは外資系コンサルティング会社などを経てJPiXの親会社である経営共創基盤(東京)に転職し、JPiXの立ち上げに加わった。まだ36歳の若さだが企業の経営に携わった経験は豊富だ。 一つの企業で長く働くと、良くも悪くも「会社の常識」を超えた発想が難しくなる。雲井さんは「スワニーに従来とは違う考え方を注入するのが私の役割だ」と話した。社員約110人と面談し、前向きで情熱のある人材が多いと感じた。大半の社員と食事を共にして意思疎通を図った。着任から半年。取引先からの受注を前倒しすることで工場の稼働率を安定させるなど、目に見える結果を出している。 「大企業ではなく、スワニーのような地方の中堅企業がグローバルな視点でビジネスをすることに意味がある」。今夏から米ニューヨーク州のスワニー現地法人の幹部となり販路拡大に乗り出す。中高年がメインの顧客層を若者に広げる構想を描く。