タクシー業界が支配する日本版ライドシェア! 利用者のメリットよりも「業界を守る意識」が見え隠れするその中身とは
タクシー会社の思惑が見え隠れする中途半端なライドシェア
ようやく4月から日本でもライドシェアが解禁された。まず東京、神奈川、愛知、京都の4都府県の一部地域で導入され、続いて札幌や大阪、福岡などでも5月以降に走り始めるという。 【写真】日産が一般人も乗れる自動運転タクシーを運行予定!(全35枚) とはいえ「日本版ライドシェア」という呼び名があるように、アメリカのウーバーなどとは違う部分が多い。 日本版ライドシェアは、タクシーが不足している地域や時間帯で、タクシー会社に登録した一般ドライバーやマイカーを活用する仕組みで、タクシーの配車アプリを使い、運賃はタクシーと同一。タクシー会社は登録したドライバーの研修や運行管理を行い、事故が起きた場合の対応も行うという。 タクシーという言葉が何度も出てきたことでわかるように、4月から始まるのはタクシー会社の運営になる。もちろん事故対応などの安心感はあるだろうが、少し前までライドシェアに強硬に反対していたタクシー業界が、自分たちに都合のいいルールを押し付けた結果であることが伝わってくる。 そもそもタクシーは、そんなに安全な移動手段ではない。国土交通省が出した、2021年度の走行距離1億kmあたりの事故件数の統計では、自家用車が42.7件なのに対し、タクシーは149.9件と3倍以上にもなっている。 さらに年齢別では70~74歳の事故件数がもっとも多く、空車時の事故件数が輸送時の3倍以上という数字も出ている。 なので僕はアメリカのように、自由な働き方がしたいという若い人が、副業のひとつとして、流しではなくアプリでの依頼に応じて移動をサポートするのは、アリだと考えている。他人を運ぶ自体が危険なら、ドライブデートも危険となってしまうわけだし。 反対意見が根強いウーバーイーツだって、実際には多くの人が利用し、配達をしていることが、飲食店に行けば一目瞭然だ。一部の人が大きな声を上げているという状況は、ライドシェアにも当てはまるような気がする。
交通過疎地域こそ導入すべきなのに大都市からスタートする謎
もうひとつ日本版ライドシェアで問題なのは、最初に書いた都市名でわかるように、もともとタクシーの多い地域から導入していること。これもまたタクシー業界の策略だろう。並行して乗務員を増やしていって、ライドシェアがいらない方向性に持っていくという思惑が透けて見える。 でも本来は、日々の移動にも困っている地方から入れていくべきではないだろうか。複数の地方自治体からも同様の意見が出ていて、国は6月までに法整備などの議論をまとめたいとしているそうだが、石川県小松市のように、いち早く行動に移した地域もある。こちらは自治体ライドシェアと呼ばれている。 じつは以前から、交通空白地自家用有償旅客運送という制度はあって、その名のとおりバスやタクシーのない地域では、一般ドライバーが自家用車を使って、運賃を取って人を運んでいいことになっている。小松市の事例は、このルールが昨年末に一部緩和したことを活用したものだ。 一方僕も取材したことがある、京都府京丹後市の「ささえ合い交通」では、自動車保険に独自の項目を盛り込み、毎朝ドライバーのアルコールチェックや健康状態確認を実施。車両にはドライブレコーダーを設置している。タクシーに近い安全対策ができないわけではない。 それでも危険という人は、使わなければいい。僕はモーターサイクルにも乗るけれど、危ないので乗らないという人もいる。それと同じだ。大事なのは移動の選択肢を少しでも多く用意すること。業界側がそれを制限するようなことはあってはならない。
森口将之