米国は「エネルギー自立」しているのか? 最近の大統領選討論から考える
米国の「エネルギー自立」という考えは、最近の大統領候補討論会でも登場するなど、依然として注目の話題だ。多くの人がその意味を定義するのに苦労している一方で、誰もが自分なりの意見を持っているようだ。 ■一貫した用語の確立 エネルギー自立の定義の下では、以下の2つの主張はそれぞれ真実だと理解することが重要だ。 1. 現職のジョー・バイデン大統領の下で米国がエネルギー面で自立していないのであれば、ドナルド・トランプ前大統領の下でもエネルギー自立を果たしていなかった 2. トランプ前政権下で米国がエネルギー面で自立していたのであれば、バイデン政権下でエネルギー自給率は記録的な水準にまで高まった トランプ前政権下でエネルギー自立し、バイデン政権下で自立を失うという筋書きはあり得ない。 ここで、概念について簡単に確認しておこう。同じ内容について話していることを明確にするために、定義を立てることは重要だ。 ■定義1 輸入ゼロ エネルギー自立の考え方には、2つの方法がある。自立の定義の1つは、エネルギーを輸入しないということだ。それを真のエネルギー自立と見なす。これを「輸入ゼロの定義」と呼ぶ。 エネルギー市場は国際化しているため、筆者はこの定義が有用だとは思わない。米国はエネルギー資源の一部を輸入し、それを製品に転換して輸出している。米国は1950年以前に原油の輸入を開始し、以降毎年輸入し続けている。 この定義によれば、米国は少なくとも75年間、エネルギー面で自立していないことになる。この定義は、世界のエネルギー供給がいかに相互依存しているかを無視しており、この定義によるエネルギー自立は必要でも経済的に望ましいものでもないことが分かる。 したがって、「トランプ前大統領がエネルギー自立を果たした」という考え方は、輸入ゼロの定義の下では正しくない。トランプ前大統領の任期中、米国は原油と石油製品を日量平均930万バレル輸入していた。輸入ゼロの定義に従えば、上述の主張1が成立する:トランプ政権下でもバイデン政権下でも、米国はエネルギー面で自立していなかった。