被災地では住宅の補修作業などが進められる。被災者は「窮状を忘れないでほしい」と訴える＝酒田市下青沢

　衆院が解散し、世の中は選挙ムードの中、7月末の記録的大雨で甚大な被害を受けた酒田市大沢地区では、いまだに自宅の復旧作業に追われる住民の姿があった。降雪期を前に家屋の応急処置が必要という。改修を依頼しても工事業者の手が回らない。発生から2カ月が経過した今なお、復旧は道半ばだ。「窮状を忘れないでほしい」。被災者が選挙戦に求めることは、この一言に尽きる。 　集落に向かう道路は、一部で片側通行の規制が続く。道沿いにある田んぼには、豪雨の際に流れ着いた流木が残る。民家近くにあった政党の立て看板は選挙を控えて新しい物に張り替えられたポスターも目立った。 　「これ以上、ダメージを受けないよう、今月中に冬支度を終えたい」。酒田市下青沢の農業相蘇弥（わたる）さん（54）は連日、避難先の酒田市営住宅から被災した自宅に通う。川沿いに位置する自宅には冬になると強い風が吹き付ける。積雪は多いと2メートルに及ぶ。ほこりや雪が入らないよう、骨組みだけになった1階部分に、プラスチック製の板を取り付ける作業を進める。

　相蘇さんは80代の両親と3人暮らし。7月の豪雨では近くの荒瀬川が氾濫し1階が被災した。柱を残し、家財道具が全て流された。流木が大量に流れ込んだ上、近くに構えていたビニールハウスなど3棟、農機具もだめになった。今年栽培面積を増やしたばかりの農地も浸水。収穫はゼロになった。それでも「良い場所が見つかる保証はない」。物件探しの長期化を防ぐためにも自宅に戻る決断をした。 　選挙戦が始まり、各政党は自民党の裏金問題追及、物価高騰対策の推進などを掲げるが「暮らしを立て直すために、何からしていいか分からない状況。争点に上がっている項目と目の前に横たわる問題とのかい離が大きい」とこぼす。自宅の改修は進むのか、仕事道具の買い換えにどの程度の資金を借りられるか―。不安は尽きない。 　災害で集落を離れる人もいる一方、相蘇さんを含め住み続ける人たちもいる。今夏のような被害を繰り返さないようにするためにも国に求めるのは「誰もが安心して暮らせるような、治水対策」だ。地方創生を掲げるのであれば、地方でも安全安心な暮らしができるような環境整備を求めたい。

　自身の被災経験から、候補者の災害に対する認識、政策に目が向くようになった。災害大国の日本では、災害が起きるたびに復旧してきた。「しっかり対策を練ってほしい。そこが揺らいでしまうと政治の信用をなくす」と強調する。「地域の実情をしっかり見ていると感じる候補に未来を託したい」。地方創生を着実に実行できる候補者に、一票を投じたいと考えている。 　　　　　◇ 　15日に公示された衆院選。本県の有権者は政権選択の短期決戦に何を思い、期待するのか。農業、高齢者福祉、子育て、被災地、商工業の現場に迫り「声」を聞いた。