最も輝いたキャストは? 長澤まさみの歌が泣けるワケ。映画『スオミの話をしよう』評価レビュー。三谷幸喜最新作を考察
『記憶にございません!』以来、5年ぶりとなる三谷幸喜の監督・脚本作品、映画『スオミの話をしよう』が公開中だ。突然失踪した女性・スオミを長澤まさみが演じ、 西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一など豪華俳優陣が脇を固める本作のレビューをお届け。キャストの演技に着目し、その魅力を紐解く。(文・田中稲)【 あらすじ 解説 考察 評価】 【写真】長澤まさみに振り回される松坂桃李ら豪華俳優陣の劇中カットはこちら。映画『スオミの話をしよう』劇中カット一覧
5人の男のマウント合戦
『記憶にございません!』から約5年ぶり、三谷幸喜監督9作目となる『スオミの話をしよう』が9月13日(金)に公開された。設定からすでに興味深い。 大富豪の妻・スオミ(長澤まさみ)が、ある日突然姿を消す。そこで謎を解くべく大富豪の家に集まるのは、現在の夫とスオミの4人の元夫! 年齢も職業も異なる個性的な男性たちが、スオミについて話し合うのだ。ところが、浮かび上がる彼女のイメージは見た目も性格も異なっていて…というストーリー。 そもそも、5人の夫の面々を見るだけでも面白い。挙動不審の遠藤憲一、カタブツすぎる西島秀俊、情にもろすぎる小林隆、うさんくさい松坂桃李、わがまま爺さん坂東彌十郎、最高だ! 製作発表で、三谷幸喜監督が、この映画は5つの要素があると話していた。それは「コメディ」「ミステリー」「恋愛映画」「長澤まさみ作品」「三谷幸喜作品」。なるほど、観て納得、そして思う。全部ひっくるめてこの映画、けっこう怖い! 現夫と元夫の5人全員がよってたかって、妻のスオミについてエモエモに思い出すのだが、マウント合戦に必死になり、スオミ失踪の真相の追及を後回しにしてしまうほど。
悲劇と喜劇はコインの表と裏
そもそも、彼らが集められた理由は、現夫の大富豪、売れっ子詩人が、スオミの失踪を大ごとにしたくないから。演じるのが坂東彌十郎だから不思議と憎めないが、冷静に考えるとかなりヤバイ男だ。 西島演じる警察官の、笑顔で自分の意見を押しつけてくる感じもヒエーだし、松坂桃李演じる十勝座衛門はプライドの塊で出まかせだらけだ。そしてスオミは、一緒にいる人によって性格を変えることができる「うまく合わせる」頭のいい子だ。つまり、誰も彼女の素顔と本音を知らないのである。 これまでスオミが彼らに合わせてきた過去を想像すると、笑ってしまうと同時に、なんとも哀しくもなってしまうのである。 同じ脚本のまま、役者たちが深刻なテンションでセリフを読めば、シリアスなサスペンス「スオミの話をしよう…(震え声)」という別作品にもなりそうである。 もともと、三谷幸喜監督の映画で毎回思うのが、アクシデントや悲惨な状況は、考え方によると幸せへのきっかけとなる、ということだ。そしてこの『スオミの話をしよう』は、悲劇と喜劇はコインの表と裏なのだ、とこれまでの作品でもっとも痛感させられる。