無修正での浮世絵春画描写が実現した劇映画「春画先生」
特典映像から読み解ける、一丸となって取り組んだチームの結束力
特典映像に収録された、主要4人のキャストによる座談会や完成披露上映会前後の舞台挨拶には、出演を心から待ち望んだ俳優陣が共有する塩田監督への惜しみない敬愛が満ち溢れ、少々際どく挑戦的な題材にも一丸となって取り組んだチームの結束力がみなぎる。サディスティックな言動にアンビバレントな想いを忍ばせる一葉の多面性に肉迫した安達の、SとMについてのユニークな見解や、監督いわく“いい加減な色男”を程よく嫌味ない塩梅で妙演した柄本が、辻村の強烈なインパクトの勝負下着を自らチョイスした意外な理由。迷走気味の恋路をさらに引っかき回すメフィスト風に振る舞いつつ、荒療治のキューピッドのごとき役割も担う曲者コンビ誕生秘話に、安達と柄本の緻密な役づくりの一端を、感銘深く垣間見ることができる。 そんなスリリングなアンサンブルを奏でるカルテットに加え、芳賀家の裏も表も知り尽くすベテラン家政婦役を、かつて様々な日活ロマンポルノ作品で性愛に溺れる女性の業の計り知れない深遠を誠実かつ大胆に体現した白川和子に託すキャスティングにも、塩田監督のこだわりが感じられる。毎日、鰹節を削っては丁寧に出汁をとり、妻を亡くし喪失感に襲われるようになってからも、変わらぬ生活を続けて芳賀を支えてきたであろう彼女が、いきなり転がり込んできた小娘に対抗心やジェラシーを沸々と燃やすさまを通して、いくつになっても衰え知らずの女性の情念を、誇り高く巧演する。 呆れるくらいにコロコロと変化する風向きを慎重に見極め、率直に物申すのでさえ、相当の覚悟を強いられる。何とも窮屈で息苦しいご時世ゆえに、身も心もぐっちゃくちゃにかき乱されながらも、生来潜む面白すぎる個性をめきめきと開花させ、欲望や本能の赴くまま、まっしぐらに突き進む男女の暴走っぷりが余計にまぶしく輝いて見え、こちらの胸のつかえまでほどけてくる、愛の寓話でもあった。 文=服部香穂里 制作=キネマ旬報社
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