【映画ライターの週末映画案内】転落死の真相と夫婦の秘密が法廷で暴かれる『落下の解剖学』|Mart
夫婦二人が言い争う内容はとてもリアルで、仕事と家事の両立と分担、子育てについて、過去の過ちの蒸し返し……と、どの夫婦にも起こり得ること。ただ、妻がベストセラー作家であること、息子の目が不自由なこと、夫が過去や叶えたかった夢にとらわれ過ぎていることなどが複雑に絡み合っているからややこしい。しかも夫は亡くなっているためどうしても妻の分が悪い。一般的な映画であれば主人公を応援し、理解したいと思うのが心情ですが、もしかして彼女……と心をざわつかせながら観ることになり、最後まで展開が読めないおもしろさがあります。
【見どころ③】もう一人の主人公・子役の演技にも注目
登場人物が少なくシチュエーションも法廷か自宅が中心になるので個々の演技力が重要ですが、11歳の目が不自由な少年ダニエルを演じたミロ・マシャド・グラネールくんの演技力はすばらしかったです。もう一人の主人公と言ってもいいくらいの存在感でした。
パパを失った悲しみの中で証人として法廷に立たなければならず、さらに裁判が進むにつれママを信じていいかどうかわからなくなる。揺れ動く心と不安を抱えながら、自分なりに辛いことから目を背けず真実を見つけようともがき成長する姿に胸を打たれます。 ミステリーというよりは法廷での心理戦を通して描かれる家族の物語。結末を迎えてすら、最後の判断は観客に委ねられる部分もあります。ぜひ最後まで見届けてください。 取材・文/富田夏子
作品情報
『落下の解剖学』公開中 監督:ジュスティーヌ・トリエ 脚本:ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ 出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ 配給:ギャガ ©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma