物議を醸したトランスジェンダー競泳選手への判決 女子部門への参戦禁止に元金メダリストは「適正カテゴリーで泳ぐべき」と指摘
スポーツ界の未来に影響する重大な判断が下された。現地時間6月12日、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は、男性から女性へ性別変更した競泳選手のリア・トーマス(米国)による世界水連が定めたトランスジェンダー選手を女子のカテゴリーから実質的に締め出すルール制定の撤回を求める訴えを棄却した。 2020年まで男性として競技を続けていたトーマスは、21年の秋から女性として競泳に参戦。2022年3月にはNCAA(全米大学体育協会)の大会で優勝した初のトランスジェンダー女子選手となった。 ルール上は問題がなかった。性転換後に男性ホルモンのテストステロンのレベルを1年間以上抑制していたトーマスは、「女性」として認知されて大会参加を認められていた。だが、22年の夏に世界水泳連盟(ワールドアクアティクス=WA)が、女子部門への参加を禁止する決定を公表。これに本人は「不公平だ」と異議を唱えたが、ついにCASでも訴えは退けられた。 今回の判決によって、悲願であったパリ五輪出場の望みも絶たれたトーマス。一方で今回の決定を「正当な判断」として好意的に捉える声も小さくない。 元競泳米代表で、1964年の東京五輪の金メダリストでもあるドナ・デバロナさんは、米メディア『TMZ』の番組内で「適正なカテゴリーで泳ぐべき」と指摘。さらに1980年のモスクワ五輪で銀メダルを手にし、引退後は英代表のコーチにもなったシャロン・デイビスさんも「一流の女性アスリートが、男子だったら平凡な水泳選手に負ける必要がなくなる」と意見を飛ばした。 なお、五輪出場権を奪われる形となったトーマスも甘んじて判断を受け入れる気はない様子だ。判決後に弁護団を通じて声明を出した彼女は「トランスジェンダーの女性の競技参加を全面的に禁止することは差別であり、私たちのアイデンティティーとなる貴重なチャンスを奪うものです」と訴えている。 賛否両論を巻き起こした長柄一つの局面を見た同問題。だが、その余波は今しばらく続きそうな気配だ。 [文/構成:ココカラネクスト編集部]