『アイのない恋人たち』福士蒼汰の“恋人モード”の破壊力 鮮やかに描かれた“タイミング”
家族の問題、結婚の約束……。勢いのみでは乗り越えることが叶わない、“アイ”の試練を繊細に描き出した『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の第4話。相手を好きな気持ちだけでは超えられない壁を前にした7人を観て、あなたは誰に共感を抱いただろうか。 【写真】『光る君へ』花山天皇とは正反対 『アイのない恋人たち』では愛に悩む30代となった本郷奏多 恋の道には、2つの異なる歩みがある。ひとつは情熱のままに突き進む道、もうひとつは愛をゆっくりと育む道だ。前者を選んだ郷雄馬(前田公輝)と近藤奈美(深川麻衣)の心は、結婚という共通の夢に一直線に向かっていた。出逢いからまだ日が浅く、両家の祝福もまだ得られていない彼らの決断に、久米真和(福士蒼汰)と淵上多聞(本郷奏多)は、「すぐ別れる芸能人カップルにしか見えない」「向こうの親だって反対するんじゃ?」と少々冷たい声を投げかける。 2人の結婚を心配する声を上げたのは、婚姻届の保証人になることを頼まれた今村絵里加(岡崎紗絵)と冨田栞(成海璃子)も同じ。ところが奈美は、絵里加と栞に対して「お2人に欠けてるものって何かわかりますか?」と恋愛の「勢い」の価値を熱く語りかける。その情熱は、ためらう絵里加たちに勇気を吹き込むが………。 第4話では、各登場人物の家族との関係性についても深く掘り下げられた。特に多聞、奈美、絵里加の三者は、それぞれが抱える家庭の問題が個人の日常生活にも大きな影響を及ぼしていることがわかる。そんな愛(佐々木希)を含む7人の中で、今最もさまざまなしがらみに苦しんでいるのは多聞なのではないか。 父親との衝突をきっかけに、「もう家族とは思わないでくれ」と言い捨てて家を出てしまった多聞の胸の内を思うと切ないものがある。しかし、彼の心の隙間を優しく埋めたのが栞だったのかもしれない。表面上は一進一退の関係に見えた2人だが、栞の「もっと多聞さんのことを知りたい」という直球の想いが心を通わせ、正式に交際を始めることに。 この栞の告白のタイミングも絶妙で、一見脈絡がないように見えて、一歩を踏み出すにはぴったりな瞬間だったと思う。日々恋愛や仕事に追われる私たちの生活では、時にはタイミングが全てを決定づける瞬間があるからだ。第4話のエピソードは、そうした瞬間が見事に映し出されていた。 たとえば、兄との諍いによるストレスで心が重くなった絵里加が、深夜まで飲み明かし、結局は真和に送り届けられる場面。真和は絵里加の兄に対して心からの言葉を投げかけるが、その結果、怒りを買ってしまい殴打される。これもまた、この日この時でなければ起こり得なかった“タイミング”の話なのかもしれない。 この出来事により、「もう真和とは会えなくなるのでは」と絵里加は不安に駆られるが、この最悪な展開を経てもなお、次のデートは意外にも実現する。 しかし、恋愛の世界では“タイミング”が予期せぬ修羅場を引き起こすことも。今回のエピソードでいうならば、絵里加のブックカフェで、真和への感情を尋ねられた愛が、「もちろん好き。初恋の人だから」と断言するシーンだろう。 努力とは無関係に第三者が恋に介入してきたり、相手が仕事に没頭している最中に恋が始まるなど、“アイ”の道は予測不可能なものであることが本作を通じて鮮やかに描かれているように思う。 そして今回、多くの視聴者が真和という男の魅力を再認識したはずだ。絵里加からの告白をきっかけに2人の間に生まれた甘い空気感は、これまでに見せた真和の一面とは一線を画す「恋人モード」が披露された瞬間でもある。 現実でも、恋人にのみ見せる特別な一面があるのはよくあること。第3話で愛の息子との深い対話を交わし、今回は絵里加の兄に向けて真摯な言葉を投げかける姿から一転、愛情深く、柔らかな表情を見せる真和の姿に、視聴者は引き込まれたはず。しかし、その繊細な役割の切り替えを自然に演じることができるのは、福士蒼汰の演技力の賜物だろう。真和という人間の持つ、自然な多面性を見事に表現していた。 第3話の終盤で愛が一人で真和を見つめるシーンと対照的に、今回は絵里加が真和を目撃することで幕を閉じる展開は、まるで「真和争奪戦」とでもいえる面白い構成だった。 恋愛ドラマの醍醐味は、視聴者が登場人物たちの行動に対して声を大にして意見を述べることにあるかもしれない。しかし『アイのない恋人たち』はそのリアリティがあまりにも大きく、時に重たい感情を抱かせるほどだ。絵里加、愛、真和の三角関係もまた、誰かの心を本当の意味で震わせているに違いない。
すなくじら