クソくだらない調査報告書はいらない…人類学者が死ぬ気でフィールドノートを書く「納得の理由」
「民族誌」とはなにか
1922年に出版された『西太平洋の遠洋航海者』の「序論 この研究の主題・方法・範囲」は、研究方法の説明にあてられています。その中で彼は調査研究の原理を、以下の3つに整理しています。 1つ目が、研究者が「真の学問的な目的」を持っていること。2つ目が、そのために「ふさわしい環境」に身を置くこと。3つ目が、証拠を集め、決定する専門的な方法を用いることです。その中でも、マリノフスキは2つ目の「民族誌的調査にふさわしい環境」について、著作の中で真っ先に説明しています。 では、マリノフスキの言う調査にふさわしい環境とは何でしょうか。 私自身も経験があるのですが、現地で生活し始めると、初めは目に映るものすべて新鮮で驚きに満ちています。ところがその暮らしに慣れ始めると、初めは驚愕していた現地の人々の振る舞いも見慣れた日常の風景になっていきます。それは悪いことではありません。現地の人々の考え方の微妙なニュアンスが、自分の中に浸透してくるからです。そして、次第に人々が行う喧嘩や交わす冗談、家族生活の出来事など、昼間に起こったことなら、なんでも手に取るように分かるようになります。その過程で、現地の人々と自分自身が、次第に一体化していくような感覚を覚えます。 このような調査環境の中で長期にわたって暮らした後に、調べたことや経験をまとめることになります。それが「民族誌」(エスノグラフィー)です。 さらに連載記事〈なぜ人類は「近親相姦」を固く禁じているのか…ひとりの天才学者が考えついた「納得の理由」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野 克巳