是枝裕和監督、大ファンの女優・斉藤由貴は「コメディエンヌも悪女も魅力的」
斉藤由貴は不思議な女優
本作では、役所広司演じる殺人犯・三隅が接見室で、福山雅治扮する弁護士の重盛相手に、何度も供述を変え、真実を闇に包み込む。“真実はなにか”を解くのではなく、“法廷という場の在り方”に疑問を投げかけているのだ。斉藤演じる美津江も、白黒どちらかという存在ではなく、ただただ、自分が行った行動を頑なに信じる強さを持つ女性を演じている。画面に映る斉藤が演じる美津江には“異様さ”が目立つ。 是枝監督は「ゾワっとしますよね」と斉藤の演技を絶賛すると「観た人が母(斉藤)と娘(広瀬すず)の異様さを感じると思うのですが、観たくないものを観てしまったような背徳感というか、本質を直接言わずに表現してくれる芝居をしてくれた二人(斉藤と広瀬)はありがたかった」としみじみと語っていた。 念願叶った斉藤の起用。是枝監督は「監督業を続けてきて良かったと思えるぐらい」と理想的なタッグを組めたことを喜ぶと「撮っていて本当に不思議な女優さんだと思いました。女優さんっていろいろなタイプがいて、お芝居に没入してわからなくなってしまう人もいるんです。斉藤さんの場合、ものすごく入り込んでいるにも関わらず、スッと俯瞰で観ることもできる」とさらなる魅力を発見したという。 是枝組と言えば、常連俳優が多数存在するが「いろいろな役割がいますね。例えば樹木希林さんなんかは、自分がちゃんとした監督でいなければいけないと思わせてくれる人。しっかり向き合わないと怒られますからね。監督って一番偉い人だと思われがちなのですが、希林さんみたいな人がいてくれると安心できます。斉藤さんも今回ご一緒させていただき、さらにこの先を掘ってみたいと思えた。次はコメディエンヌの側面を撮らないわけにはいかないですね」と早くも次回作のオファー(!?)をしていた。 そんな斉藤は初の是枝組について「一番偉いと思われるのが嫌だとおっしゃっていましたが、すごく温かくスタッフ全員からの人望がある一方で、才能でみんなをひきつけているので、演出チーム、照明チーム、小道具チーム、音声チームなど、それぞれの持ち場で監督のために最大限力を発揮されているなと感じるんです。今回も『こういう風にしてください』という演出はないんです。こちら側がどう感じるかを観察してくださって、感じたものを映画の流れにバランスよく入れ込んでいただけるので、とても心地よい時間でした」と述懐。すでに是枝組の虜になったようだ。 「昔から大ファンだったので、失望されたくないじゃないですか」と照れ笑いを浮かべた是枝監督。 続けて「斉藤さんの作品はたくさん観ているので、相米さんはこう撮った、市川準はこういう魅力を引き出したなんて考えると、これまで表現されていない魅力をいかに引き出せるか……。ここがスタートだなって思いますね」と笑顔で語っていた。 (取材・文・写真:磯部正和) ※このインタビューは7月末に実施しました。