映画「フィクショナル」に見るカリスマ像【大森時生×酒井善三×梨】
梨が気に入ったシーンは?
◾️強キャラと「不気味の谷」 大森:梨さん的に、良かったシーンはありましたか? 梨:最終的に現実と虚構が曖昧になっていくあのくだりで、強キャラみたいなおばあちゃんが出てくるじゃないですか。 大森:強キャラ(笑) 梨:あのセリフの言わせ方がすごく好きなんです。その後、溜めて溜めてドーンみたいな展開があるんですが、どんどんツイストしていく感じがすきです。 あとは、主人公が途中でわけわかんなくなっちゃうところ。電車に乗っているときに、周りの人に「お前なんなんだよ」って言っちゃったりとか。路上に座り込んだりとか。描写の仕方を間違ったらすごくチープになると思うんですが、本作ではリアル感が強かったですね。 酒井:嬉しいです。 梨:もう一つ質問したいのですが、大森さんと酒井さんがタッグを組まれた過去作の「カウンセラー」そして私も参加した「滑稽」も合わせて、すごく絶妙な顔立ちの俳優さんをキャスティングされていますよね。生活感がある感じというか。 大森:たしかに今回の神保役の清水尚弥さんは、顔つきも含めて少し信頼の置けないふわっと現実感のない雰囲気ってのはありますよね。 梨:失礼な言い方になってしまいますが、なぜか「不気味の谷」を感じて、すごい怖くて。役者さんの妙だなと本当に思いました。 大森:ご本人は本当チャーミングな方で、すごい明るい方なんですよ。 梨:やっぱ役者さんはすごい……。 ◾️現実世界にも通じる物語? 大森:僕がすごい面白いなと思うのが、最終的に主人公がリーダーになってるということ。主人公が冒頭で言ったことを受けていて。でもああいうことって本当にあるんだろうなって気がしたんですよね。 現実世界でも、何か特定の陰謀論みたいなものとか、特定の思想に傾倒した人たちがテロや暴動を起こしてしまうとき、その組織の底には思想がある人がいるかもしれないけど、実際に現場で「次こっち行くぞ」とか言ってる人は、意外と神保のような人かもって思わせられましたね。酒井さんは、あれは現実の何かからインスパイアを受けたんですか? 酒井: 結構初期の段階から、神保がいつの間にかカリスマになってるみたいな構想はあって。そこから逆算して、対になる一番最初のシーンをつくりました。「決められない、決めたことがないやつ」みたいな設定をつけなきゃいけないなって。 大森:余談ですが、僕が結構好きなのが最後の病院での襲撃シーンで。男性の看護師の人が、女性の看護師を撃つときに、一瞬迷って撃つんですよ。あそこがなんか、知らない物語を感じさせられました。何か意味合いがあったんですか? 酒井:あれ直前に書き足したんですけど、あの2人って「滑稽」以降ずっと出てくれてる俳優さんなんですよ。それで「何かあった方がいいよね」って話になって。 それで朝、俳優さんたちにスタジオで会ったときに、「実はこの2人は前に恋仲だった時期があって」って言ったら、「ええ?」って言われたのですが、あんなシーンになりました。僕が、拳銃を一回下におろしてから撃つのがめっちゃ気に入って。そこだけ何回も練習してもらいました。だから率直に言えば何の意味もないです。お遊びです(笑) 大森:「フィクショナル」は全体的に淡い恋心みたいのがありつつも、それが結局何かしらのいろんなものに濁流のように飲み込まれていきますよね。その儚い気持ちは、そのままなかったことかのように物語が進んでしまうというか。 だから僕はあのシーンにもそれを感じました。現実でもかなりあるんですよね。例えば、仲が良かったり好きだなと思っていた人が、ラジオで一言言ったセリフとかで「なんか違うかも」となって、塗りつぶされたように過去がなかったかのように消え去るっていう感じ。酒井さん的にはそんな狙いはなかったのですね。 酒井:恋愛自体そんな大して重要視するような感情じゃないと僕は思ってるんです。信頼に足らない価値観だから。だからこそ、あっさり恋愛した奴は殺されるんだということですね。 12月23日には、大森が手がけたテレビ東京の「TXQ FICTION」シリーズ第2弾「飯沼一家に謝罪します」の放送も控える。2024年5月に放送し話題となった「イシナガキクエを探しています」に続く作品で、4夜連続放送となる。
Forbes JAPAN 編集部