寝たきり社長の働き方改革(3)重度障がい者は1ヶ月働いて1万円の現実
安倍晋三首相が「働き方改革」を強力に推し進めているおかげで、健常者のみならず、障がい者の社会進出がニュースで取り上げられることが多くなってきた。しかし、障がい者がどのようなところで働いているのか、実際に就職できる会社があるのかなどについて、具体的に知らない人も多いだろう。ここではそれについて少し説明したい。
「障害者雇用率制度」という国の政策がある。事業者は、従業員の数に応じて、決められた数の障がい者を雇用しなければならない。たとえば、45.5人以上50人未満の従業員を擁する民間企業は、平成30年4月1日以降、障がい者を全体の2.2%以上雇用しなければならないと義務づけられている。 この「障害者雇用率制度」のパーセンテージは、これからさらに増えていくとも考えられる。国はこの雇用率に達していない企業に対する事実上の"罰金制度"も設けており、企業は半強制的に障がい者の雇用を押し付けられている現状だ。 障がい者を雇用しなければならなくなった企業は、障がい者に配慮した子会社を設立し、その子会社が障がい者を雇用する形態を取ることも認められており、その場合、その子会社のことは「特例子会社」と呼ばれる。 自分で身の回りのことをすべて行うことができる程度の軽い障がい者は、この特例子会社に雇われ、事務や電話受付などの仕事を行うことが多い。 ただし、障がいの度合いが重くなるにつれて、受け入れる企業の数が大きく減少するという現実からは目を離さないでほしい。 「障がい者が就職できる職場」を考えたときに、ひとつの尺度となるのが「介助」という問題である。これは「日常生活を営む上での他人の手助け」である。 しかし、たとえば、僕のように「話す」ことと「親指を動かす」ことぐらいしかできない者に必要なのは「介護」である。僕の場合は、「障害程度区分」のうち、最重度の介護を要する「区分6」となる。 障害程度区分では、数字が減るほど障がいの程度は軽くなり、「非該当」や「区分1」の人であれば、介助者がいなくともある程度、食事や排泄といった最低限の日常生活をこなすことができるだろう。 筆者のように「区分6」の者は、特例子会社に入れることはほとんどない。これは企業に非があるというよりは、受け入れ体制が整っているかどうかが大きい。 なにせ、自分だけでは何もできないのだから、仮に企業が筆者を雇ったとすれば、出社中は筆者の面倒を見る人間を常にそばに置いておかなければならないのだ。それは企業からしてみれば、あまりに負担が大きいだろう。 そのため、筆者のような重度障がい者は、学校を卒業した後、仕事をせずに家で過ごしたり、働く意志のある者は「授産所」という、障がい者が簡単な作業を行って賃金を得る場所に行くことになる。 しかし、筆者の場合、ネジを締めることも鉛筆を持つこともできなければ、文字を書くことすらできない。通勤も自分で電車に乗っていくとか、家から車で運転していくとか、そんなことも不可能な話である。それに寝たきりの筆者は、職場にベッドさえ必要になってくる。 そんな筆者を受け入れてくれる授産所がないわけではなかったが、仕事が限られることと、1ヶ月間働いて1万円前後の賃金を得ることが精一杯という場所で、今後の人生をずっと過ごすことを思うと、もう少し違うことにチャレンジしてみたかった。 だが、高校1、2年生の自分には、まだ起業して会社を作ろうなんて発想はなく、どんなところで働けばいいのかと考える日々だった。 いよいよ現実的に就職を考えていた高校3年生の夏休みのこと。人生を180度変える大事件が筆者に起きた。いま思い出しても悔しい。その事件について話をしよう。