48歳、独身、結婚願望0。映画が求めていた中年女性の自分探し。
――あなたのキャリアについても聞きたいのですが、画家になることからスタートして、映画制作にシフトするきっかけが何かあったのでしょうか。 子どもの頃は、他に何をすればいいのかわからなかったし、唯一できたことが絵だけだったんです。それが、悩んだり、怒ったり、喜んだりしたことについての表現であり、自分の居場所を見つける方法でした。でも、学んでいるときは、とても孤独な作業でした。自分の作品と一人きりで向き合っていたので、気づくまでに時間はかかりましたし、意識的な決断ではありませんでしたが、「よし映画館に行って、映画をつくって、人々に囲まれよう!」と思ったんです。映画をつくることは一人ではできないじゃないですか。常に他人と協力し、対話し、自分の考え、ビジョン、アイデアを共有する必要があるので。それは私にとって重要なことでした。映画って、ある種の社会やシステムを生み出し、それがどのように機能するかを創り上げることができる空間なんです。それが映画の複雑さであり、魅力だなと。ただ、それをするためには自信を持つ必要があります。関わる他の人たちも自信を持たなければならないし、誰もが自分のやり方を見つけなければならない。共同作業やシェアの経験を通じて気づいたことは、みんながある一点に辿り着くために素晴らしく高い集中力を持って働いているということです。周りの人たちと集団となって働くことができ、アイデアをわかち合い、与え合うものをたくさん持っていることはパワフルで魅力的ですし、それを知って、心から映画づくりがしたいと思えました。そのために、私はこの場所にいるのだと。そして、政治的な声の一部としても、映画館は、重要なことについて話すための非常に強力なツールだと考えています。 ――自分を表現するツールとして映画製作を発見する過程で、あなたをエンパワーした作品や映画監督について教えてください。 その手の質問はいつも答えるのに困ってしまうんですよね(笑)。その日の気分次第だし、明日には答えが変わってしまうとも思うので。でも、私は今日まで、たくさんの作品を観てきています。チープと呼ばれるような映画から宇宙ものまでハマってしまうんです。メジャーかもしれませんが、90年代のアメリカのハリウッド映画で育っているので今でも大好きですし、私にとっては別世界のようでとてもパワフルに感じました。自分が本来アクセスできない世界がそこにあるからこそ、映画を観るのが好きだったんです。イタリアのネオリアリズムにもとても影響を受けました。彼らが日常生活でどのように闘っているのか、戦争の背景や戦後をどのように生き延びているのかというストーリーに感動しました。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーやデレク・ジャーマンも大好きですし、その後、ナラティブ映画のクラシックであるバーバラ・ハマーも大好きになりました。ケネス・アンガーも。いろんな作家がたくさんいますが、いつも必ず思い出すのは、やっぱりイタリアのネオリアリズム、ヴィットリオ・デ・シーカとピエル・パオロ・パゾリーニですね。 ――中年の独身の女性や、体の大きな女性が受ける社会的なプレッシャーを見せながら、亡き父親や兄の呪縛が伝わる夢や行為もどこかユニークだったり、嫌な重みがない、どこへ行くかわからなくてワクワクする作品ですが、そのビジョンはどういう考えのもと生み出されたのか気になります。 ビジョンについては、ただユニークにしたり、魅力的にしたりしているわけではありません。それらはエテロの人生にとって必要なものであり、彼女の内的世界や恐れを表現するために不可欠なものでした。例えば、恐怖を視覚化するにもさまざまな方法があると思います。内面の世界だから、ナレーションで表現してもいいし、よくわからない音でもいいわけです。つまり、どの映画監督のビジョンにおいても、ストーリーをユニークなものにするのは、より自分に近い、よりキャラクターに近い言語を見つけることなのだと思います。私は脚本も書いているので、書くということは、多くをコントロールしながらも他の人と一緒にストーリーを作り上げているということなんですね。しかしもう一方で、キャラクターを信頼しなくてはいけない。キャラクターを信頼して書くと、方向を示してくれるんです。その方向はとてもパーソナルであり、また普遍的でもあります。なぜって、そこで話されているのは誰かについての物語で、その誰かは人間だからです。だから、私たちはみんな人間として似たような要素を持っている、というのが私の考えです。 ●『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』 ジョージアの小さな村に住む48歳のエテロは、ブラックベリー摘みの最中、美しい声でさえずるブラッグバード(黒ツグミ)に吸い寄せられるように、崖から足を踏み外し転落してしまう。何とか這い上がったエテロは自分の店に戻り、そのまま人生で初めて配達員のムルマンと肉体関係を持つ。そして、その時を境に彼女の運命が変わり始める…! 監督・脚本_エレネ・ナヴェリアニ 原作_タムタ・メラシュヴィリ「Blackbird Blackbird Blackberry」 出演_エカ・チャヴレイシュヴィリ、テミコ・チチナゼほか 協力_大阪アジアン映画祭 配給_パンドラ 2023年/ジョージア=スイス/カラー/ジョージア語/110分 (C) - 2023 - ALVA FILM PRODUCTION SARL - TAKES FILM LLC 1月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺にて公開。 ●Elene Naveriani エレネ・ナヴェリアニ>>1985年ジョージア生まれ。現在はスイス在住。2003年、絵画専攻でトビリシ国立芸術アカデミーを卒業。ジュネーブ造形芸術大学でキュレーションについて学んだ後、映画を学び始める。卒業制作の「GOSPEL OF ANASYRMA」(14)が、高く評価された。初長編「I AM TRULY A DROP OF SUN ON EARTH」(17)はロッテルダム映画祭で初上映され、数々の賞を受賞。短編「RED ANTS BITE」(19)がスイス映画賞最優秀短編映画賞にノミネート。短編ドキュメンタリー「LANTSKY PAPA’S STOLEN OX」(18)はベルフォール国際映画祭で最優秀短編映画賞を受賞するなど国際的評価を受けた。2021年、2作目の長編映画『WET SAND』が同年にロカルノ国際映画祭で世界初上映され、最優秀主演男優賞を受賞した。 Text&Edit_Tomoko Ogawa
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