20年目の恋(11月27日)
泉崎村の住宅地に立つ一軒の家。入り口に「マンスフィールド記念館」の看板がある。ニュージーランドの女性作家に関する小さな私設資料館だ。研究者の男性が館長として開館し、今年20周年を迎えた▼キャサリン・マンスフィールドは1888(明治21)年生まれ。34歳で世を去るまで88の短編を残した。代表作は「ザ・ガーデン・パーティー(園遊会)」。裕福な一家が華やかに過ごすその日、近所に住む貧しい男が事故死する。何不自由なく育った主人公の少女が、人生の意味は何かを自問する。作家の人生もまた、不遇と病の連続だった▼館長は作家研究の第一人者。学会発足を主導した。泉崎が作中風景に似ていることから建設を決めた。館の通称「モミの木荘」は作家の執筆場と同じ、庭には登場した花を植える徹底ぶりだ。出会いは英文科の学生時代。園遊会を読み衝撃を受けた▼マンスフィールドは繊細な文章と豊かな詩情が特長とされる。創作に向き合い懸命に生きた34年は、一編の詩と言えよう。研究を重ねるごとに作家への愛情を深めた館長の人生もまた、一つの長編に例えられるかもしれない。現在85歳。思い人を語るまなざしは、今も若々しい。<2024・11・27>