『ポケ森』がサービス終了&“有料買い切り版”発表 モバイルゲームの新たなビジネスモデルとなるか
任天堂は8月22日、『どうぶつの森 ポケットキャンプ』(以下、『ポケ森』)のサービスを2024年11月29日をもって終了すると発表した。プレスリリースによると、今後は「有料買い切り版」として発売される予定だという。 【画像】11月29日にサービス終了…『ポケ森』今後のスケジュール 7周年のタイミングで新たなステージへと踏み出すことになった『ポケ森』。有料買い切り版に含まれるコンテンツを予測しつつ、新たなチャレンジの意義を考えていく。 ■シリーズから派生した2017年リリースのモバイルゲーム『どうぶつの森 ポケットキャンプ』 『ポケ森』は、任天堂の人気シミュレーション「どうぶつの森」シリーズから派生したモバイル向けのゲームアプリだ。プレイヤーはキャンプ場の経営者となり、レジャーに打ち込んだり、「オブジェ」を設置したりといった行動を通じて、そこに集う動物たちとのコミュニケーションを楽しんでいく。 特徴となっているのは、シリーズの伝統である良い意味でゆるいゲーム性。慌ただしい操作が求められないうえ、基本プレイ無料で始められることから、同タイトルは2017年11月のリリース以降、年齢・性別を問わず、幅広い層に愛されてきた。 サービスの終了にともない、任天堂は現在、常時のデータ通信を必要とせず、アプリ内に課金の仕組みを持たない「有料買い切り版」の開発を進めているとのこと。同バージョンには、プレイデータの引き継ぎ要素も盛り込まれるという。続報は2024年10月ごろにアプリ内でアナウンスされる予定。プレスリリースでは、サービスの終了と同時期の配信を目指していることが明かされている。 ■サービス終了からの買い切り版リリースは、モバイルゲームの新たなビジネスモデルとなるか 誕生以降、急速に拡大を続けてきたモバイルゲーム市場だが、ここ数年は往時の勢いにかげりが見え始めている。直近でも少なくないタイトルがサービス終了のアナウンスを行い、界隈を賑わせてきた。こと国内のRPG作品においては、(ライブサービスゲームである性質上)それまで結末にたどり着いていなかったシナリオを、撤退のタイミングにあわせて完結させる動きもある。なかには、キャラデータやロア(ゲームの世界観を構成する歴史や伝承、人物のプロフィール、舞台設定などを指す言葉)を閲覧できる「オフライン版」をリリースし、ファンへのアフターフォローのような形で、その足跡をゲームカルチャーに残すタイトルも出てきている。 任天堂が開発を進めている『ポケ森』の有料買い切り版もまた、これらと類似する取り組みだと言えるだろう。しかしながら、今回アナウンスされた内容を見るかぎり、同バージョンは上述のオフライン版と異なる性質も持ち合わせている。それは「(課金要素こそなくなるものの)これまでと同様のプレイが可能となりそうである点」「(常時のデータ通信は必要ないという任天堂の言葉から)部分的にデータ通信をともなう体験が含まれそうである点」だ。 これらの要素に鑑みると、『ポケ森』はただ単にサービスを終了するのではなく、基本プレイ無料のゲームから有料買い切り版のゲームへと生まれ変わるという考え方もできるのではないか。もしかすると、オリジナル版とはまったく異なる要素が盛り込まれる可能性もあるのかもしれない。たとえば、シリーズの最新作『あつまれ どうぶつの森』に含まれていた協力要素のように、オンラインのフレンドとリアルタイムでコミュニケーションするといった機能が新たに実装される可能性もないとは言い切れない。 当然、ゲームそのものの遊び方が変わったり、運営によるアップデートが行われなくなったりといった変化について、改変前と改変後のどちらがよいかという議論も生まれるだろう。しかしながら、ファンにとってみれば、現時点で『ポケ森』の代替が見当たらないこともまた事実である。一定の支持を獲得したタイトルがこのように形を変えて残っていくこと自体が、メーカーとユーザーの両者にとって、とても意義深い取り組みであると言えるのではないだろうか。 また、ゲームカルチャー全体という広い視点で考えると、任天堂のこのような取り組みは、いつかは終わりを迎えるであろうすべてのモバイルゲームの前例となっていく可能性もある。ただ単にサービスを終了し、コンテンツそのものをなかったことにするのではなく、同様に遊べる「有料買い切り版」として再度リリースし、その歴史に名を刻んでいく。こうしたアプローチがこれまでなかったものであることは明らかだ。 無論、すべてのタイトルにこのような生き残りの道が与えられているわけではない。サービスの終了までに一定数のファンを獲得してきたからこそ、『ポケ森』は有料買い切り版として生まれ変わるという選択をとれたはずだ。そこにはシステムを大幅に調整する必要がないという同タイトルならではの事情も影響したと考えられる。日本国内で最もリリース数が多いであろうRPG作品に単純にトレースできる可能性は低い。しかし、ひとつの道筋として、『ポケ森』のアプローチはモバイルゲームの新たなビジネスモデルにもなり得るものであるように感じた。 『ポケ森』の有料買い切り版ははたして、どのようなタイトルとなるのだろうか。詳細が発表される10月までは、あと2か月ほど。続報に注目したい。
結木千尋