前身アプリ「ミュージカリー」から継承したティックトックの「成長モデル」とは?
だが新天地なら、集中型経済を運営することができる――ほとんどの富が人口のごく少数に流れ、まずその人たちが裕福になる。その後、彼らがロールモデルとなり、隣の芝生は青いことを見せつけ、少しでも多くの人を他のアプリからミュージカリーに移行するよう促す。それはティックトックにも引き継がれていくモデルである。 けれども、どこかの時点で富は浸透しなければならない。「アメリカンドリームをもつのはいいことだ。だがそれが単なる夢なら、人はいずれ目を覚ます」それは新しいアプリ経済の上流階級や創設者にも言えることだ。 たしかに、人々に新たなプラットフォームを使ってもらうには名声だけでも十分だ――だがいずれどこかの時点で、お金はどこから入ってくるのだろうと考えるようになる。「ひとたび名声をつかんでしまったら、それだけでは満足できなくなる」とジューは言う。「収益化が必要になるのだ」 ジューの夢は、ごく初期の段階ですでに驚くほど明確だった。彼は、複数の通信プラットフォームを単独のアプリに結びつける補助的アプリであるライブリー(Live.ly)を世に出したばかりだった。これはミュージカリーが口パクアプリのすき間市場から抜けだし、より一般的な動画アプリ市場へ参入するのに役立つと思われた。 ジューとヤンがターゲットとした地域は、アメリカやヨーロッパに限らず、東南アジア、インド、日本、ブラジルにまで広がっていた。その頃には、“ミューザー(muser)”と呼ばれたユーザーはこれによって異なるタイプの動画を作ることができるため、年代が少し上の視聴者にも魅力を感じてもらえると思われた。ジューは13歳から20歳の若者だけを求めていたのではなかった。彼は20代や30代のユーザーも求めていた。 ジューには鋭い方向感覚、ビジョンの大胆さ、トライへの意欲があった。「うまくいくかどうかを知るには、多くの試みが必要。どこまで大きくなれるかを予測するには早すぎます」と彼は言った。
クリス・ストークル・ウォーカー/村山 寿美子