〈介護現場の貧乏クジ〉母の介護で仕事と婚約者を失った二女、使い込みを疑われ長女とバトル…1,000万円はどこに溶けた?【弁護士が解説】
遺言書もなく、口頭での主張では遺産分割への配慮は「望み薄」
このようなケースは、相続トラブルの相談例としても枚挙にいとまがなく、ある意味典型的なものであるといえます。 本件で問題となるのが、家の名義です。二女の方が母親の介護のために同居し、世話をするなかで、多くの時間と労力、そして自分のお金までも使っていますが、家の名義は母親のままなので、母親が亡くなれば、介護に一切の手出しをしなかった姉にも、同等の相続権が生じます。 筆者が二女の方からお金の流れについて伺ったところ、1階リビングのバリアフリーと水回り全体、玄関から門までのアプローチの段差を解消する工事、一部の屋根部分の補修で、母親の預貯金の1,000万円は、ほぼ使い切ってしまったとのことでした。 そのほかにも、老朽化したエアコンと洗濯機の買い替え、日常におけるタクシーの利用、母親が食べたがるものなどを購入するなどして、二女の方の預貯金も、じわじわと減っていったといいます。 当初、持病の状況から、介護生活は長くて2年との見通しを立てており、それなら働きながら乗り切れるだろうと思ったそうですが、結果は予想と異なるものとなってしまいました。 さらに悪いことに、介護に追われて書類整理が追い付かず、工事関連の領収書や、日々の生活に伴うレシートなども散逸してしまったのです。 長女はお金の流れの不明確な部分を追及し、二女が母親のお金を使い込んだ挙句、年金も自由に使ったとして激怒しており、話し合いが不可能な状況となりました。 二女の方が弊所に相談したことで、弁護士を交えた話し合いが行われました。結論から申し上げると、長女の方が折れるかたちで、自宅は売却して分割することとなり、200万円ほど多く二女の方が受け取ることで着地しました。 しかし、今回二女の方は、母親の介護に伴い離職したうえ、婚約者とも別れることになってしまいましたが、この点を十分に反映できなかったことは後悔が残ります。 母親の介護との因果関係を証明することがむずかしく、その点を遺産分割に反映するのは、法的にもハードルが高いからです。 「母が大変」「助けなければ」という思いと、周囲からの「身軽なあなたがやらなくてどうする」という圧力に押され、自宅に戻るという決断をしてしまいました。 自宅へ戻るべきではなかったと後悔していますが、当時はそれがわかりませんでした。 契約社員でしたが、正社員登用の可能性もあり、何より、当時の婚約者とも別れることなく、結婚していたのではと思います。 相談者の方は、そのようにおっしゃっていました。 介護と相続の問題は、親族間でしっかりと話し合っておかないと、あとでトラブルになる可能性が極めて高いといえます。ましてや、今回のケースのように、1人に負担が偏るような状態を放置するのは問題なのです。 (※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。) 山村法律事務所 代表弁護士 山村暢彦
山村 暢彦